空腹という名の、深夜の共犯関係
指先に残る、博多駅前の刺すような冷たい空気。12月の福岡は、想像以上に肌を突き刺してくる。キャナルシティの色鮮やかなイルミネーションに目を奪われていたけれど、結局私たちが一番執着したのは「夜食に何を食べるか」という、旅の目的を完全に忘れたようなくだらない議論だった。誰が一番に空腹を認めるかという、意地の張り合いのような賭けをしていたはずなのに、コンビニの自動ドアが開いた瞬間、温かい揚げ物の香りに誘われて全員が同時に揚げ鶏に手を伸ばした。結果的に、誰の勝ちでもなかったけれど。EN HOTEL Hakata(エンホテル博多)に戻るまでの道すがら、手に持ったビニール袋が冬の風に煽られてカサカサと鳴る音が、なんだか心地よいリズムに聞こえた。冷え切った頬に、袋から漏れる揚げ物の熱がじんわりと伝わり、私たちは口々に「明日こそは計画通りに動こう」なんて、絶対に守られない約束を交わしていた。
狭い部屋に溶け出す、本音と塩味の会話
「ねえ、地図持ってたのは君だよね?おかげで迷路みたいに歩かされたんだけど」
ベッドに腰掛けた友人が、ポテトチップスの袋を乱暴に開けながら言う。乾いた破裂音が部屋に響き、同時に濃厚な塩気が狭い空間に広がった。私は口いっぱいにコンビニのおにぎりを頬張りながら、鼻で笑った。
「いや、あっちに綺麗な光があったからでしょ。結果的にいい景色見たし、得したと思えばいいじゃん」
「得したっていうか、ただ歩かされただけ。足が棒だよ。信じられないんだけど」
そんな言い合いをしながら、私たちは身を寄せ合った。EN HOTEL Hakata(エンホテル博多)のCozyツインという部屋は、正直に言ってこじんまりしている。けれど、それが逆に心地いい。誰かが動けば誰かに肩が触れる。その物理的な距離感が、わざとらしくない親密さを連れてくる。計算されたラグジュアリーよりも、こういう「逃げ場のない近さ」の方が、今の私たちにはしっくりくるのかもしれない。
「っていうか、この部屋のスマートテレビ、ネットフリックス見れるじゃん。でも今のタイミングで映画とか無理。お腹いっぱいで寝落ちする未来しか見えない」
「賭ける?私はあと一本、アイスを食べきれると思うけど」
「いいよ、乗った。負けた方が明日の朝、コーヒー買いに行く係ね」
そんなくだらない賭けをしながら、私たちは深夜の博多の空気を、部屋という小さな繭の中でゆっくりと消化していった。誰かがこぼしたチップスの破片を拾い合いながら、私たちは自分たちが、この不便で愛おしい空間に完全にフィットしていることに気づいた。
胃袋が満たされた後の、凪のような静寂
食べ終えた後の静寂は、不思議と重くない。部屋の隅にある照明が、カーテンの隙間から入り込む街の灯りと混ざり合い、白い壁にプリズムのような淡い光の筋を投げかけていた。その光の粒子が、ゆっくりと呼吸するように揺れている。さっきまであんなに騒いでいたのが嘘みたいに、心地よい疲労感が波のように押し寄せてくる。誰からともなく、会話が途切れた。でも、それは気まずい沈黙ではなく、お互いの存在を静かに確認し合っているような、穏やかな合意に近い。
狭い空間だからこそ、隣にいる相手の規則正しい呼吸の音が聞こえる。その音が、今の自分たちにとって一番安心できるBGMだった。私たちはただ、夜が明けるまでの時間を、この小さな光の箱の中に閉じ込めておきたかった。外はまだ12月の冷たい風が吹いているけれど、ここでは誰も凍えていない。何もない、ただのコンビニ飯と、とりとめもない会話。けれど、その空白こそが、今回の旅で一番贅沢な時間だったのかもしれない。私たちはそれぞれ、心地よいマットレスの感触に身を任せ、ゆっくりと意識を深い場所へ沈めていった。
枕元に置いたミネラルウォーターのボトルに、街の青い光が静かに溶け込んでいた。
- 博多明太子入りのコンビニおむすび。深夜の背徳感が、米の甘みをいっそう引き立てる。
- 地元で人気のコンビニスイーツ。冷えた心身に、濃厚な甘さがゆっくりと染み渡る。