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川面に散ったピンクと、お菓子の取り合い

川面に散ったピンクと、お菓子の取り合い

家族で分かち合った、五つの記憶の断片

デジタルドアロック。指先に触れる金属のひんやりとした質感と、静寂を切り裂く「ピッ」という無機質な電子音。天神南駅から歩いて七分、四月の少し湿った風に吹かれながら、私たちはこの「秘密基地」の入り口に辿り着いた。フロントに誰もいない非対面式のスタイルに、最初は戸惑いもあったけれど、すぐにそれが最高の贅沢だと気づいた。誰にも気を遣わず、子供たちがどれだけ騒いでも、親が疲れ果ててぼーっとしていても、誰にもジャッジされない自由。洗練されたデザイナーズホテルという響きに惹かれて訪れたけれど、実際は「誰の目も気にせず、家族で心地よくぐちゃぐちゃになれる聖域」だった。この解放感に一番に気づき、期待に胸を膨らませて鍵を開けたのは、上の子だった。

大きな窓。額を押し当てると、外気の冷たさを孕んだガラスの温度がじわりと伝わってくる。窓の外には中洲の川がゆったりと流れ、夜が深まるにつれて街の灯りが水面に溶け出し、宝石のように揺れていた。都会の喧騒が遠くで低く唸っているけれど、部屋の中は不思議と守られた静寂に包まれている。けれど、その静寂を破るのは、窓に張り付いて「あそこに光る魚がいる!」と叫ぶ下の子の声だ。それはただの街灯の反射に過ぎないけれど、その純粋な間違いさえも愛おしく感じられる。mizuka Nakasu 5の部屋から眺める夜景は、私たちを日常から切り離し、心地よいシェルターへと誘ってくれた。この光の渦に一番に心を奪われたのは、窓の外の輝きをすべて集めようとしていた下の子だった。

ダブルベッド。洗い立てのリネンの清潔な香りと、身体を預けた瞬間にゆっくりと深く沈み込む、雲のような快感。コンフォート4人部屋の広々とした空間は、いつの間にか大人のための贅沢な休息地から、家族だけの巨大なトランポリンへと変貌していた。三人が同時に飛び込んだ瞬間、白いシーツの海が大きく波打ち、笑い声が部屋いっぱいに弾ける。上の子は浴衣をマントのように羽織り、勇敢な騎士のようにベッドの上を駆け回っていた。「洗練された滞在」なんていう大人の言葉は、どこか遠くへ飛んでいってしまったけれど、それでいい。シーツに散らばったお菓子の屑さえ、後で思い出せば微笑ましい記憶になるはずだ。この沈み込む快感に一番に気づき、疲れ果てて真っ先にダイブしたのは、私だった。

明太子おにぎり。指先に残るわずかな塩気と、もちもちとしたお米の粘り気。コンビニで買った簡素な食事だけれど、福岡の街に溶け込んできたという実感が、この一口に凝縮されていた。ピリッとした刺激が喉を通り、鼻に抜ける独特の香りが食欲をそそる。子供たちは「辛い!」と顔をしかめながらも、なぜか手が止まらない。口の周りを赤く染めて、お互いの顔を見てはキャッキャと笑い合う。豪華なディナーよりも、ベッドの上で転がりながら食べるこの不格好な食事が、何よりも贅沢なご馳走に感じられた。この刺激的な味に一番に反応し、好奇心に負けてもう一口だけ挑戦したのは、辛いものが苦手なはずの下の子だった。

四月の春風。窓を少しだけ開けると、桜の淡い香りを孕んだ冷たい空気が、さらさらと部屋に流れ込んできた。白いカーテンがふわりと舞い、光の粒子がダンスをしている。外では誰かが花見に興じ、春の訪れを祝っているのだろう。新しい生活が始まる季節特有の、少しだけ不安で、けれど期待に満ちた、あの透明な匂い。私たちはただ、そこにいた。何もしない贅沢。ただ風を感じ、家族の穏やかな呼吸に耳を澄ませる。そんな空白の時間こそが、旅の本当の目的だったのかもしれない。この風の温度に一番に気づき、「春が来たね」とふと大人びた表情で呟いたのは、上の子だった。

白いシーツの上で、疲れ果てて眠る子供たちの静かな寝息だけが響いている。

  • チェックインは非対面式なので、お子様が賑やかでも気にする必要はありません。ご家族のペースで、ゆっくりとプライベートな時間を始めてください。
  • 天神南駅からの道中、ふと路地裏を覗いてみてください。ガイドブックには載っていない、小さな春の断片が見つかるはずです。