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鍵の音が響いた、私たちだけの空白

鍵の音が響いた、私たちだけの空白

5年後の私たちへ。

ねえ、覚えてる?福岡のあの春の風の匂い。きっと私たちは、今よりもずっと騒がしくて、もっと適当に生きていたと思う。あの時、誰が一番に寝落ちしたか、今でも賭けができるくらいには、鮮明に覚えている気がするんだ。


5年後もきっと、指先が覚えている4つのこと

チェックインの瞬間の、あの妙な静寂
mizuka Nakasu 5のドアを開けたとき、そこに「誰もいない」という事実に、みんなで顔を見合わせたこと。フロントの誰かに挨拶する手間がない代わりに、自分たちだけでこの空間を占有していいという、ちょっとした背徳感みたいなものがあった。指先に触れたカードキーのひんやりした感触と、カチリと音がしてロックが外れた瞬間の、秘密基地に潜入したときのような高揚感。あれはきっと、大人になって忘れてしまった「自由」の正体だったのかもしれない。

天神南駅からホテルまでの、ちょうどいい距離
駅から歩いて7分。その短い時間、誰が一番先に桜の花びらを肩に乗せるかという、どうでもいい賭けをしたこと。4月の空気はまだ少しだけ冷たくて、吐く息が白くなりそうでならない、あの絶妙な温度。道端のコンビニで買った、名前も知らない地元の飲み物を飲みながら、とりとめもない話をしていた時間。目的地に着くことよりも、その「歩いているという状態」に、私たちは心地よさを感じていた気がする。

窓の外、中洲の夜景が溶け出すリズム
大きな窓から見下ろした川の流れ。夜の光が水面に反射して、ゆっくりと揺れている様子を、私たちは言葉もなく眺めていた。豪華な景色というよりは、ただそこにある都市の呼吸を、部屋の静けさの中で共有していた感じ。誰かがふと「ここ、ずっと居られるね」と言ったけれど、実際には次の日の朝、誰が一番に起き上がれないかで激しく言い争うことになる。そのギャップが、なんだか可笑しくて。

深夜2時の、床に広がったコンビニご馳走
デラックスルームの広い床に、適当に買い込んだおつまみと飲み物をぶちまけたこと。ベッドがあるのに、あえて床に座って、明日の予定を完全に無視して喋り明かした時間。もつ鍋の出汁のような、濃厚で塩気のある香りが部屋に漂って、誰かが冗談を言って、みんなで同時に笑う。その笑い声が、高い天井に反射して、心地よいノイズとして部屋を満たしていた。あの時の、お腹いっぱいになって心地よく重い感覚は、きっとどんな高級料理よりも記憶に残っているはずだ。


5年後にこの記憶を開いたとき

たぶん、旅のしおりに書いてあった観光スポットの名前なんて、ほとんど忘れていると思う。どこで何を食べたかという詳細なリストも、記憶の隅の方へ追いやられているかもしれない。でも、mizuka Nakasu 5の白いシーツに顔を埋めたときの、あの清潔なリネンの匂いとか、裸足で踏んだフローリングの少しだけ冷たい温度とか、そういう身体的な感覚だけは、不意に蘇ってくる気がする。

もしかしたら、私たちはもう、あんな風に全力でくだらないことに笑い合えなくなっているかもしれない。けれど、この記憶の断片に触れたとき、ふっと肩の力が抜けて、「ああ、あんな時間もあったな」と思えるはず。完璧に計画された旅よりも、誰かが忘れ物をしたり、道に迷ったりした、あの「不完全な時間」こそが、一番贅沢な贈り物だったことに、5年後の私たちは気づくのだろうか。


白いベッドシーツの上に、一枚だけ迷い込んだ桜の花びら。
  • 夜明け前の静かな時間に、あえて窓辺で川の流れを眺めてみて。
  • 地元のコンビニで、見たこともない不思議な名前のお菓子を買い込んで、部屋で品評会をすること。