← 回到 THE LUIGANS Spa & Resort|THE LUIGANS Spa & Resort

言葉をなくしたあとの、風の色

陽だまりの橙と、震える指先

裸足で踏み出したフローリングの冷たさが、足裏からゆっくりと体温を奪っていく。ザ・ルイガンズ.スパ & リゾートのオーシャンビュールームに足を踏み入れたとき、まず視界を染めたのは、ルイス・バラガンの色彩を意識したという、鮮やかで、けれどどこか切ないオレンジ色の壁だった。その色は、遠い記憶の中にある夕焼けのようでもあり、あるいはこれから始まる不確かな日々への不安を、そっと包み込んでくれる温もりのようにも感じられた。指先で触れたシーツは、心地よい緊張感を孕んで少しだけ硬く、それがかえって、自分が今ここに存在しているという輪郭をはっきりとさせてくれる。四月の朝の空気はまだ鋭く、肺の奥まで冷やされる感覚があった。「ここなら、うまくいくかな」と心の中で呟く。私たちは、これから先、同じリズムで歩いていけるのだろうか。隣にいるあなたの体温だけが、今の私にとって唯一の確かな座標だった。

水平線に溶ける、静寂の青

バルコニーツインの大きな窓の外に広がるのは、博多湾の淡い青。空と海の境界線が曖昧に溶け合い、どこまでが水でどこからが光なのか、その区別がつかなくなる時間帯がある。カーテンが潮風に揺れるたびに、かすかに塩の香りが入り込み、部屋の中の空気がゆっくりと入れ替わっていく。隣に立つあなたの肩が、春の風に小さく揺れているのが見えた。遠くで一定のリズムを刻む波の音が、自分の心拍数と重なる瞬間がある。言葉を交わさなくても、今のこの静寂こそが、私たちにとっての正解なのだという気がした。誰にも邪魔されない、ただ二人だけの呼吸がこの贅沢な空間を満たしていく。この深い青い世界に身を委ねていれば、抱えていた迷いや、言葉にできなかったためらいさえも、心地よい重さとして受け入れられる。視線の先にある水平線が、どこまでも優しく、私たちを包み込んでいるように見えた。

風の速度と、甘い記憶のラグ

二人で同時に気づいたのは、庭に立つパームツリーの葉が激しく揺れる音だった。風が吹き抜け、葉がしなり、そしてその音が耳に届くまでに、ほんの少しだけ時間差がある。そのわずかなラグが、まるで遠い国から届いた手紙をゆっくりと読み解くような、もどかしくも心地よい感覚を運んできた。人生における理解というものも、きっとこういうことなのだろう。相手が何かを発し、それが自分に届き、意味として理解されるまでの、あの贅沢な空白。ザ・ルイガンズ.スパ & リゾートの広い芝生の上で、私たちはただ、その風の速度を測っていた。ふと、私が自撮りをしようとして、ガラスに映った自分のひどい二重顎に気づいて吹き出したとき、あなたも一緒に笑った。その笑い声が、張り詰めていた空気をふわりと緩めてくれる。途中で口にした福岡のいちご、あまおうの濃厚な甘さと、後味に残るわずかな酸味が、春の訪れを舌の上で鮮やかに教えてくれた。

指先から伝わる、あなたの手のひらの温もりだけを強く握りしめて。

  • 朝の光が柔らかい時間帯に、隣接する海の中道海浜公園まで、あてもなく散歩すること
  • 潮風で強張った体を、スパの温かな温度でゆっくりとほどいていくこと