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スーツケースの音が消えるまで、ずいぶん時間がかかった

静寂の余白と、沈み込む繭の記憶

(Aの記憶)
カードキーをかざしてドアを開けた瞬間、まず意識に飛び込んできたのは、圧倒的な「空白」の量だった。ザ・レジデンシャルスイート・福岡 / The Residential Suites Fukuokaの部屋に足を踏み入れ、スーツケースを転がしたとき、その乾いた音が壁に跳ね返って戻ってくるまでに、ほんの少しだけ時間がかかった気がする。西日に照らされた白い壁と、広々としたフロア。私たちは、その広すぎる空間という静かなプールに、ぽつんと投げ込まれたみたいに、しばらくの間、お互いの顔を見て笑っていた。誰がどこに陣取るかという、子供のような言い争いが始まるまでの、心地よい静寂。この贅沢な余白が、旅の緊張をゆっくりと溶かしてくれた。

(Bの記憶)
ドアを開けたとき、ふわりと漂ってきたのは、清潔なリネンと微かなアロマが混ざり合った、落ち着いたホテルの香りだった。インテリアは現代的ながらも、どこか懐かしさを感じさせる温かみのあるトーン。最新の洗練よりも、こういう「誰かに大切に使われてきた心地よさ」がある場所の方が、私たちは素直になれる。結果的に、私が真っ先に飛び込んだのはキングダブルのベッドだった。体が深く沈み込む感覚が、まるで表面張力に負けて心地よい水の中に吸い込まれていくみたいで、そのまま数時間は動きたくないと思った。友人たちが「広すぎだろ」と口々に驚いている横で、私はもう、柔らかい布団という繭の中で、意識を半分飛ばしていた。

濃厚な熱気と、弾ける笑い声の食卓

(Aの記憶)
もつ鍋の鍋底から、白い湯気が激しく立ち上がっていた。目の前が真っ白に染まるほどの蒸気。箸で持ち上げたもつから、黄金色の濃厚なスープがぽたぽたと滴り落ちる様子を眺めていたとき、それがまるで温かい潮流のように感じられた。口に運んだ瞬間、脂の甘みとニンニクの刺激が、冷え切っていた体の内側をじわりと満たしていく。11月の福岡の夜風にさらされて強張っていた指先が、次第に熱を取り戻していく感覚。味というよりは、温度が細胞ひとつひとつに染み込んでいく心地よさだった。隣で誰かが「これ、絶対太るよね」と呟いていたけれど、そんなことはどうでもいいくらい、その一口が切実で、贅沢だった。

(Bの記憶)
味よりも、あの時の騒がしさが鮮明な記憶として残っている。もつ鍋を囲んで、誰が一番多く食べたか、誰が一番いいタイミングで冗談を言ったか。そんなどうでもいい会話が、絶え間なく飛び交っていた。笑いすぎて、飲み物が鼻に抜けそうになった瞬間、私たちは同時に爆笑した。その笑い声が、鍋から溢れ出したスープみたいに、テーブルいっぱいに広がっていた。美味しいのはもちろんだけど、それ以上に、このメンバーで、この温度感で集まっていることが、何よりも贅沢だった。誰かがわざとらしく「友情が深まったね」なんて言い出して、全員で「キモい」と返し合った、あの不器用なやり取り。そういう時間が一番心地よかった。

予定を脱ぎ捨てた、贅沢な怠惰について

西新駅からホテルまで歩く10分間、あるいはホテルから福岡タワーへ向かう道すがら。11月の百道浜の空気は、肌に触れると少しだけピリッとする冷たさがあり、潮の香りが混じっていた。私たちは、完璧なスケジュールを立てていたはずなのに、結果的にほとんどの計画を無視した。でも、それでいいと思った。ザ・レジデンシャルスイート・福岡 / The Residential Suites Fukuokaの、あの広すぎるベッドに一度身を任せてしまうと、急いで観光地を回るなんていう意欲が、朝霧のように消えてしまったから。私たちは、ただそこにいて、たまに外に出て、冷たい空気を吸って、また暖かい部屋に戻る。そんな「贅沢な怠惰」こそが、今回の旅の正解だったということ。それだけは、誰一人として異論を唱えなかった。

ふと足元を見ると、雨上がりの水たまりに、福岡タワーの青い光が静かに溶け込んでいた。

  • 部屋に洗濯機があるため、着替えを最小限にして、その分美味しい福岡グルメを堪能するのが正解です。
  • 11月の百道浜は海風が強く冷え込むため、見た目以上に厚手のコートを用意することをおすすめします。