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氷が溶ける音だけが聞こえる午前二時

氷が溶ける音だけが聞こえる午前二時

湿り気を帯びた重い風が、肌にまとわりつく。首筋に張り付くシャツの不快感に、私たちは意地になって賭けた。「誰が一番先に『もう無理』と口にするか」。結果、地図を読み間違えたリーダーがわずか三十分で脱落。ダイワロイネットホテル博多祇園の自動ドアが開いた瞬間、肺の奥まで凍りつくような冷気が流れ込んできた。あれは、都会の真ん中で出会った最高の救済だった。



屋台の喧騒の中で買った、ぬるくなったラムネ。瓶の表面を伝う水滴が指先をじわりと濡らす。口の中で弾ける炭酸の刺激が、熱気で麻痺していた感覚を強引に呼び戻した。隣で誰かが頬張った焼きそばの、焦げたソースの香ばしい匂い。それがこの夏の正解なのだと、確信した。


「この部屋、スタイリッシュすぎて緊張するんだけど」と誰かが呟いた。洗練されたインテリアに気圧されたのも束の間、私たちは弾かれたようにベッドへダイブし、真っ白なシーツの上に大の字に広がった。この完璧な空間を、自分たちのだらしなさで塗り替えていく快感。私たちは、最高に贅沢なリラックスルームで、最高に不格好に過ごすことに決めた。


浴衣の帯をどう結ぶか。右か左か、正解がわからなくなって、誰かが「もう適当に巻けばいいよ」と投げ出した。結果、一人だけ帯がずり落ち、まるで不器用な包みごはんのような姿に。それを「博多の最新トレンド」と言い張る強情な笑い声が、部屋の中に心地よく響いていた。


午前五時。街がまだ深い眠りに落ちている時間。加湿空気清浄機の低い唸り音だけが、静寂を心地よく埋めている。窓の外は、夜から朝へ移り変わる淡い群青色。何も考えなくていい、空白のような時間がここにある。ただ、静かに呼吸をしている心地がした。


フランスベッドのマットレスが、身体のラインに合わせてしっとりと沈み込み、同時に心地よく押し返してくる。裸足で踏みしめたタイルの、ひんやりとした清潔な温度。ベッドからバスルームまでのわずか数歩の距離にさえ、大人の余裕という贅沢な余白が漂っていた。


遠くから、地鳴りのような「追い山」の掛け声が聞こえてくる。壁を通り抜け、肌にまで届く激しい振動。外の狂乱に近い熱狂が、この静謐な空間では心地よいBGMに変わる。私たちは、ダイワロイネットホテル博多祇園という安全なシェルターの中から、夏の絶頂を観察していた。


結局、緻密に計画した旅程は、何一つ達成できなかった。けれど、冷房が心地よい部屋で、結露した冷たい飲み物を片手に、互いの失敗を笑い合った。それで十分だった。飾らない、そのままの自分でここにいていいのだと、心がほどけていった。

氷が溶けて、グラスの底で小さく鳴った。

  • 祇園駅からの徒歩1分を、あえて遠回りして路地裏の静寂を歩いてみて。
  • 部屋の広いデスクで、旅のしおりをわざと破り捨てる快感を味わって。