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ガラスの湯気と、それを拭った小さな手

家族の記憶に灯る、冬の五つの断片

浴衣の帯:下呂駅から宿まで歩く15分、肺の奥まで刺さるような12月の鋭い冷気に身を縮めていたけれど、しょうげつの暖簾をくぐった瞬間、しっとりとした温もりに包み込まれた。3001号室の畳に足を下ろし、子供たちに浴衣を着せる。少し大きすぎる袖を揺らしながら、もどかしそうに帯と格闘する上の子の小さな背中。硬い生地の感触と、結び目がほどけるたびに漏れるため息が、冬の静寂に心地よく溶けていく。上の子が最初に「難しい!」と声を上げ、その不格好な愛らしさに、親としての幸福感が静かに満ちていった。

お湯の膜:大浴場「竹取物語」に浸かると、肌の上に薄い透明な膜が張るような、驚くほど滑らかな質感が広がった。それはまるで、目に見えない絹のドレスを纏ったかのような心地よさ。お湯を跳ね上げ、水しぶきが光の粒となって舞う。本来なら「静かにしなさい」と嗜めるところだが、ここではその無邪気な騒がしささえも、冬の夜の静謐な一部に感じられた。次男が最初に「お湯が、石鹸みたいにすべすべだよ!」と歓声を上げ、その指先が描く波紋に、家族の緊張がゆっくりとほどけていった。

曇ったガラス:湯気に包まれた内風呂のガラス窓は、外の世界を淡い水彩画のようにぼかしていた。乱反射する街の灯りが、深い紺色の夜空に溶け込み、幻想的な光の海を作っている。そこに小さな手が触れ、ぎゅっと白い曇りを拭い去ると、そこだけが切り取られたように鮮明な夜景が覗いた。その小さな穴から見える世界は、まるで秘密の扉を見つけたかのような高揚感に満ちていた。末っ子が最初にガラスに手を触れ、外の世界への好奇心を瞳に宿していた。

檜の香り:露天風呂に身を委ねた瞬間、鼻腔を突き抜けたのは、清々しくも深い檜の香りだった。頬を撫でる凍てつく夜風と、体の芯からじわりと広がる熱い湯の温度差。その激しいコントラストが、かえって「今、ここに生きている」という確かな安心感へと変わっていく。肺の奥まで浄化されるような深い呼吸を繰り返し、山々の稜線に溶け込む月を眺めていた。私が最初に深く息を吸い込み、日常の喧騒を遠い記憶の彼方へと押し流した。

飛騨牛の脂:夕食に運ばれてきた飛騨牛を口に運ぶと、濃厚な脂が体温で静かに溶け出し、甘い余韻が舌の上に広がった。贅沢な味わいに、それまで賑やかだった子供たちがふと黙り込む。言葉を交わさなくても、同じ温度の空間で、同じ至福を分かち合っているという充足感。視線が合った瞬間にこぼれた小さな笑い声が、食卓を温かく彩っていた。家族全員が同時に、言葉にならない幸福な表情を浮かべ、心まで満たされていくのを感じた。

布団の中で聞く冬の風の音が、心地よい子守唄のように遠ざかっていく。

  • 益田川沿いの散歩道を、あえてゆっくり歩いてみてください。冬の澄んだ空気が、思考を心地よく整理してくれます。
  • お風呂上がりには、地元の和菓子を。温かいお茶と一緒に味わう甘さが、旅の心地よい締めくくりになります。