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濡れた靴下で笑い合った、あの廊下の温度

駅に降り立った瞬間、鼻腔を突き抜ける濃い硫黄の香りに、旅が始まったことを悟った。六月の湿った空気が、ぬるいタオルのように肌にまとわりつく。誰が一番先に不機嫌になるか賭けをしようと笑い合ったけれど、実際にはこの重たい空気感に、心地よく身を委ねていた。下呂ゲストハウス ゲローバルホステル / Gero Guesthouse Gerobal Hostelまでは、歩いてわずか一分。あまりに近すぎて、高揚感が頂点に達する前にチェックインを済ませてしまった。



道端で買った飛騨牛のコロッケを、雨宿りの軒下で分け合った。黄金色の衣を噛んだ瞬間、熱い油と濃厚な肉の旨みが口いっぱいに弾ける。指先に付いた油を気にしながら、「誰が一番大きな口で食べたか」というくだらない競争が始まり、お腹の底から笑いが込み上げる。味そのものよりも、雨の匂いと、あの時の体温が記憶に深く刻まれている。


「ここ、元々はドミトリーだったんだって」。誰かが呟いた。個室化されていて清潔感はあるけれど、壁の向こうに誰かの気配が潜んでいるような、不思議な親密さがある。私たちはその「ちょうどいい距離感」に、言いようのない安心感を抱いた。豪華なスイートルームよりも、こういう少しだけ不自由で、人間味のある場所の方が、私たちのとりとめない雑談には似合っている。


部屋の照明が非接触式だと気づいたとき、私たちは忽然、魔法使いになったつもりで壁に向かって手を振り続けた。誰かが「効率的すぎて、情緒がない」と皮肉っぽく笑ったけれど、結局はみんなで、一番いいタイミングで電気がつく「正解の角度」を真剣に探っていた。そんな無意味な時間にこそ、この旅の本当の正解が隠れている気がした。


窓の外では、紫陽花が雨に打たれて深い青に染まっていた。それはまるで、濡れた和紙に濃いインクを落としたときのように、色がゆっくりと周囲に滲んでいく。私たちの心の境界線も、このしとしとと降る雨に溶かされて、誰が誰だか分からなくなるくらいに混ざり合っていく。その曖昧な感覚が、たまらなく心地よかった。


共用リビングの床に、裸足で触れたときのひんやりとした感触。誰かが持ってきたお菓子を広げ、袋がガサゴソと鳴る音をBGMに、とりとめもない話をしながら時間が過ぎるのを待つ。特別なことは何もないけれど、沈黙が全く怖くない。空っぽの空間に、私たちの笑い声だけが等分に充填されていく贅沢。


夜、飛騨川のほとりまで歩いた。深い闇の中で、小さな光が不規則に点滅している。ホタルだ。誰かが「嘘だろ」と声を上げたけれど、その儚い光を見た瞬間、全員が同時に口を閉ざした。言葉にするよりも、ただ一緒にその光を眺めていることの方が、ずっと誠実なコミュニケーションになることがある。


旅の終わりが近づくにつれ、私たちは最初よりもずっと、お互いの欠点に寛容になっていた。予定を間違えたことも、雨に濡れて靴下がぐしょぐしょになったことも、全部まとめて「いい旅だった」と笑い飛ばせる。インクが完全に滲みきって、一つの大きな色になったみたいに、私たちの関係も心地よい色に染まっていた。

濡れたアスファルトに反射する、街灯のオレンジ色。

  • 下呂駅からの徒歩1分という近さを利用して、あえて何度も外に出て街の匂いを嗅いでみて。
  • 飛騨川沿いの散歩は、あえて地図を見ずに、直感で曲がってみるのがおすすめ。