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コンビニの袋が、静寂を切り裂いた夜

コンビニの袋が、静寂を切り裂いた夜

午前二時、空腹という名の共犯者

四月の富良野は、まだ冬の記憶を完全に捨てきれていなかった。指先に触れる夜気は薄いガラスのように冷たく、吐き出す息は白く濁って、夜の闇に静かに溶けていく。コンビニからホテルまで歩く短い道のりで、私たちは誰が一番先に震え出すかという、どうでもいい賭けに興じていた。ビニール袋の中で、地元のポテトチップスと、少し温かいお茶のペットボトルがぶつかり合い、カサカサと乾いた音を立てている。その音が、静まり返った街の静寂を心地よく切り裂き、私たちの高揚感を密かに煽っていた。

ノゾホテル のロビーに足を踏み入れると、落ち着いたグレイの石のトーンが、外の寒さで昂ぶった神経を静かに鎮めてくれる。機能的で無駄のないモダンな空間。そこに、私たちの場違いなほど騒がしい笑い声が溶け込んでいく。エレベーターで部屋に上がり、広々としたベッドに荷物を放り投げたとき、ふいに気づいた。私たちは、ただお腹が空いていたのではなく、この心地よい静寂を壊すための、ささやかな口実が欲しかっただけなのかもしれない。

咀嚼音に紛れ込ませた、本音の断片

「ねえ、なんで同じ味のチップスを三袋も買ったの? 誰がどう見ても買いすぎでしょ」

デラックスキングの大きなベッドの上に、戦利品のように広げられたスナック菓子を指して、友人が呆れたように笑う。私は袋を抱え込みながら、誇らしげに答えた。

「いいの。気分によって、塩味が欲しいときと、もっと濃い味が欲しいときがあるでしょ。これは戦略的な買い物なの」

「戦略っていうか、ただの食いしん坊だよね。っていうか、私たち、明日から新生活とかいう大層なステージに上がるはずなのに、深夜にベッドの上でポテトチップスを食べてるっていうこの状況、控えめに言って最高に情けないと思わない?」

「いいじゃん。情けないままでいいよ。むしろ、この情けなさが今の私たちにちょうどいい温度なんじゃない?」

私たちは、これから始まる新しい環境や、まだ見ぬ誰かに対する漠然とした不安を、塩辛いポテトチップスの破片と一緒に飲み込んでいった。不安なんていうのは、解決すべき問題ではなくて、ただそこにある景色のようなものだ。明るい木材のトーンが温もりを添える室内で、街灯の光が窓ガラスを通り、プリズムのように分散して白いリネンに色とりどりの光の粒を落としている。その光の屈折を見つめていると、正解なんてどこにもなくて、ただ今のこの、少しだけ不格好な時間が一番正しい気がしてくる。

「本当はさ、ちょっと怖いんだよね。全部うまくいくなんて、そんなわけないし」

「わかる。でも、この状況でチップスを三袋買った私の判断力があれば、なんとかなる気がしない?」

「……いや、それはむしろ不安要素でしかないわ」

そんなくだらないやり取りを繰り返しながら、私たちは夜を使い切った。口の中に残る塩気と、心に灯った小さな安心感。それが、大人になる直前の私たちに許された最後の贅沢だった。

満たされた後の、深い沈黙

袋の中身が空になり、言葉も自然と尽きていった。部屋の中には、心地よい疲労感と、わずかに残った塩の香りが漂っている。私たちは、誰からともなく、深い眠りを誘うベッドに深く身を沈めた。肌に触れるシーツのひんやりとした質感と、その下から伝わってくる互いの体温。モダンに設計されたバスルームのグレイの石壁が、間接照明に照らされて柔らかい影を作っている。

完璧に整えられたノゾホテル の空間に、私たちの脱ぎ散らかした靴下や、空の袋が散らばっている。その乱雑さが、かえってこの場所を「私たちの居場所」に変えてくれた気がした。静寂は、何もないことではなく、満たされた後の余韻のような重さを持っている。明日になれば、またそれぞれの方向へ歩き出すけれど、この夜に共有した「情けなさ」は、お守りのように心に張り付いているだろうか。

まぶたを閉じると、窓から差し込んでいた光の粒が、残像となってゆっくりと消えていく。その消えゆく速度が、とても愛おしく感じられた。答えを出す必要はない。ただ、ここにいていい。そのことだけが、今の私たちにとっての唯一の真実だったのかもしれない。

心地よい眠りに落ちる直前、隣で誰かが小さく、安心したように寝息を立て始めた。

  • 富良野産の濃厚なミルクを使ったソフトクリームを、夜の静寂の中で贅沢に
  • 地元スーパーで見つけた、北海道限定の珍しいフレーバーのポテトチップス