← 回到 OMO5 函館 by 星野集團

雨上がりのアスファルトと、小さな手のぬくもり

次男がロビーの磨き上げられた床を全力で駆け抜ける。小さなスニーカーが硬い床を叩く、乾いた音が心地よいリズムを刻んでいる。彼にとって、この開放的な空間はきっと巨大な遊び場に見えているのだろう。ふわりと漂う清潔感のあるアロマの香りに包まれながら、私はその音を聞き、彼がどこまで加速し、どこでブレーキをかけるのかを、ただぼんやりと眺めていた。追いかける気力よりも、その無邪気な速度感に身を任せているような、不思議な心地よさが胸に広がっていく。


温泉の白い湯気に深く包まれると、肩に溜まっていた重い荷物が、ゆっくりと熱に溶け出していく。40度を少し超えた絶妙な温度が、皮膚の境界線を曖昧にし、心まで解きほぐしていく。子供たちが賑やかに騒いでいた時間から完全に切り離され、ただお湯の柔らかな圧力だけが体に伝わってくる。OMO5函館 by 星野リゾートの静謐な空間に身を委ねれば、ここにあるのは誰の母親でも父親でもない、ただの「個」としての時間だ。指先がふやけてくる頃には、心の中のしがらみも一緒に柔らかくなり、深い安らぎが全身を浸していく。
OMO5函館 by 星野リゾートの専用バスに乗り込むとき、ドアが閉まる「プシュー」という静かな排気音が耳に届く。外はしとしとと降り続く6月の雨。窓ガラスを伝う水滴が、函館の街並みを歪ませ、水彩画のような不思議な模様を描き出している。長男が「あっちに紫陽花がある!」と弾んだ声で指差すと、車内の密閉された空間に心地よい振動が響いた。エンジンの低い唸りが足裏から伝わり、雨の匂いと共に、目的地へ向かう高揚感だけがそこにあった。
朝食に並んだ海鮮丼。口に入れた瞬間、大粒のいくらがぷちりと弾け、濃厚な海の香りが鼻腔を突き抜ける。ひんやりとした酢飯の温度と、ネタの新鮮な甘みが口の中で贅沢に混ざり合う。次男が「これ、宝石みたいだね」と目を輝かせて呟き、醤油を少しつけすぎたホタテを頬張っていた。塩気と甘みが交互に押し寄せる快感。お腹が満たされるのと同時に、この街の呼吸に自分が馴染んできたことがわかる。空腹という空白が、満足という鮮やかな色で塗りつぶされていく。
窓ガラスに張り付いた雨粒が、外からの淡い光を屈折させ、小さな虹色の点を作っていた。プリズムのように分かれた光が、部屋の白い壁に揺れる影を落としている。外はしっとりとしたグレーの世界なのに、室内には不思議と温かい色彩が漂っている。その光の揺らぎを眺めていると、旅の不自由さや、子供たちのわがままさえも、愛おしい風景の一部として溶け込んでいく。正解のない旅こそが、一番正しいのかもしれないと、心の中で小さく呟いた。
玄関に脱ぎ捨てられた、濡れたレインコート。ナイロンの生地がしっとりと湿り、床のカーペットに小さな水溜まりを作っている。その隣には、長男が大切に拾ったという、形の歪な小石がひとつ。完璧に整えられた空間よりも、こうした「生活の跡」が不意に残っている瞬間に、旅の真実が宿る気がする。指先で触れたカーペットのふかふかとした質感と、濡れたコートの冷たさ。その鮮やかなコントラストが、いま私たちがここにいるという確かな実感を教えてくれる。
深夜、子供たちが寝静まった後のベッドの中。隣から聞こえる、規則正しい小さな寝息。シーツのパリッとした清潔な感触と、適度な重みの掛け布団が、体を優しく包み込んでいる。今日一日、どれだけ騒がしく、どれだけ計画が狂っただろうか。けれど、この深い静寂があるからこそ、昼間の喧騒が心地よい音楽のように思い出される。誰にも邪魔されない、深い夜の底にゆっくりと沈んでいく感覚。私たちはただ、同じ時間を共有していた。それだけで、十分すぎるほどだった。

雨上がりの夜景が、遠くの窓から静かに滲んでいた。

  • 子供と一緒に、無料シャトルバスの窓から「一番綺麗な紫陽花」を探すゲームをしてみてください。
  • 朝食の海鮮ファイブスターズで、お子さんと一緒に「自分だけの最高の一杯」をデザインして楽しんでください。