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ぬるいサイダーと、誰のせいか分からない迷路

ぬるいサイダーと、誰のせいか分からない迷路

鈍色の空と、不完全な地図が導く旅路

電車のドアが、静寂を切り裂くように鋭い音を立てて閉まった。ホームに降り立った瞬間、肺の奥まで入り込んでくるのは、アスファルトから立ち昇る湿った熱気と、どこか懐かしい雨上がりのオゾンの匂いだ。八月の新得駅は、私たちが想像していたよりもずっと静まり返っていた。私たちは、誰が地図を読み間違えたのかという些細なことで、さっそく小さな言い争いを始めた。「こっちだって言ったじゃないか」と声を荒らげるナビゲーター役の彼と、その後ろで「まあまあ」と苦笑いしながら歩調を緩める友人。重いスーツケースがガタガタと不規則なリズムで路面を叩く音が、静寂に包まれた駅前に不自然に響き渡る。誰かが「大丈夫、なんとかなるよ」と呟いたが、その声には確信がなく、むしろ心地よい不安を煽るような響きがあった。私たちは密かに賭けをした。誰が一番最初に「道に迷った」と白旗を上げるか。結局、誰もそれを認めないまま、私たちは予定にない方向へと足を踏み出した。指先にまとわりつくぬるい空気と、風に運ばれてくる青々とした草の香り。完璧なプランなんて、この街のゆるやかな時間軸には似合わない気がした。私たちの旅は、まるで目的地を忘れた緩やかな小川のように、あてもなく流れ始めた。

陽炎の向こう側、迷い込む贅沢という名の時間

歩き始めて十五分ほど経った頃、ふと視界が開け、目の前にくったり湖の深い青が広がった。湖面は陽炎に揺らめき、遠くの景色を淡い水彩画のようにぼかしている。道端には、もうすぐ始まる夏祭りの準備を告げる色褪せた提灯が、風に揺られて小さく鳴っていた。どこからか、心臓の鼓動に同期するような太鼓の音が低く響いてくる。私たちは、あえて正解の道を捨て、さらに遠回りをすることに決めた。「あっちの路地の先に、何か面白い店があるかもしれない」という根拠のない直感に、全員が快く乗ったからだ。実際には、古びた看板が寂しく立っているだけの行き止まりだったけれど、そんな小さな失敗さえも、今の私たちには贅沢なスパイスに感じられた。靴の底が地面を叩くリズムが、次第に心地よい調和を見せ始める。誰が誰の歩幅に合わせていたのかは分からない。ただ、目的地に急ぐことよりも、今この瞬間、自分たちがどこにいるのか分からないという浮遊感に身を任せることの方が、ずっと価値があるように思えた。私たちは迷っていたのではなく、迷うという自由を選んでいたのだ。湖畔を吹き抜ける風が、火照った頬を優しく撫で、旅の緊張をゆっくりと解きほぐしていった。

湯宿くったり温泉レイク・イン、静寂に溶ける心と身体

ようやく辿り着いた湯宿くったり温泉レイク・インのロビーに足を踏み入れた瞬間、外の喧騒と熱気が嘘のように消え去った。靴を脱ぎ、裸足になって踏み出した床の、ひんやりとした滑らかな質感が足裏から脳まで突き抜ける。私たちは、誰が一番心地よいベッドを確保するかで、まるで子供のような言い争いを繰り広げた。部屋に入り、重い荷物を床に放り出した瞬間に訪れる、あの独特の開放感。窓の外には、雄々しい大雪連邦の山々が、ただそこに在るという圧倒的な事実として、静かに、しかし力強く立っていた。そのまま吸い寄せられるように温泉へ向かう。湯船に身を沈めた瞬間、皮膚の境界線が消え、自分が水の一部になっていくような感覚に包まれた。お湯は水晶のように透明で、肌に触れる感触は驚くほど柔らかい。主浴槽に浮かぶ丸太に腕を預け、私たちはしばらく言葉を失った。聞こえてくるのは、お湯が揺れる微かな音と、誰かの深い吐息だけ。プライベートサウナに籠もれば、濃密な熱気に包まれて思考が真っ白に塗りつぶされ、その後の水風呂で、肺の奥まで凍てつくような冷たい空気が流れ込む。その激しい温度差に、自分が今ここで生きていることを物理的に突きつけられた。夜、レストランで出された地元の野菜は、土の力強い匂いが残る濃い味わいで、疲れた身体の芯まで染み渡った。「ここに来て本当に正解だったね」と誰かが呟いたが、私たちはあえてそれに同意せず、明日誰が一番に起きるかという、どうでもいい賭けの話を始めた。湖畔の夜は深く、窓の外では白鳥が静かに水面を滑っていた。その静謐な光景が、私たちの騒がしさを心地よいノイズに変えてくれた。

氷のような水に指を浸して、誰かが小さく笑った。

  • 湖畔の散歩は、あえて地図を閉じ、風の吹く方向へ歩いてみるのが正解。
  • プライベートサウナの後は、そのまま湖の景色を眺めて、思考を止める時間を持ってほしい。