← 回到 支笏湖鶴雅別墅 碧之座

靴底に張り付いた濡れた葉と、あの青い湖

靴底に張り付いた濡れた葉と、あの青い湖

5年後の私たちへ。覚えているかな。誰が一番に「ここは贅沢すぎる」と照れ隠しに言い出したか。結局、誰よりもその贅沢に溺れていたのはその本人だったけれど。あの心地よい静寂と、少しの気恥ずかしさを、今のあなたたちが忘れていないことを願っています。

5年後も指先に、心に、刻まれているはずの4つの記憶

土壁に刻まれた、太古のざらつきと静寂
ロビーに足を踏み入れた瞬間、柔らかな間接照明に照らされ、視界を遮るようにそびえ立つ8メートルの巨大な土壁に目を奪われた。指先でそっとなぞると、ひんやりとした土の感触と共に、万個以上のしじみの殻が不規則に突き当たり、小さく硬い刺激を肌に伝えてくる。縄文から現代までという途方もない時間が、静かに呼吸しているかのような空間。土の匂いと静謐な空気に包まれ、「自分たちの悩みなんて、この土の中の砂粒みたいなものだね」と誰かが呟いた、あの心地よい脱力感を覚えているだろうか。

エグゼクティブスイートヴィラに満ちる、贅沢な空白
ドアを開けた瞬間、ほのかに漂う木の香りと、しんと静まり返った「空間の重さ」に圧倒された。足指を深く飲み込む絨毯の柔らかな質感と、ふとフローリングに出た時に響く、乾いた足音の心地よい反響。しこつ湖 鶴雅別荘 碧の座という特別な場所に、自分たちだけが静かに溶け込んでいく感覚。深夜3時、薄暗い廊下を通りトイレへ向かうだけの短い距離が、まるで別の世界へ旅をするように長く感じられた。その贅沢なまでの空白に、私たちはただ、心地よく身を任せていた。

氷点下の風と、42度の湯気が描く生への境界線
プライベートスパで、わざと肌を刺すような11月の冷気を肺いっぱいに吸い込み、そのまま熱い湯に身を沈める。激しい温度差に心拍が跳ね上がり、皮膚がじわりと弛緩していく。耳に届くのは、かすかな湯の流れる音だけ。湯気で白く霞むガラスの向こうに、深い碧色の湖が静まり返っており、世界に自分たちしかいないような錯覚に陥った。誰が誰だかわからないほどに心身がほどけて、「もう一生ここから出たくない」と絶望的な顔で呟いたあの瞬間。あの温度の落差こそが、私たちが共に生きていた証だった。

ヒメマスの濃厚な脂と、至福の敗北感に包まれた朝
夕食に供されたヒメマスの、身の締まった弾力と口いっぱいに広がる濃厚な脂の甘み。地元の恵みを凝縮したような鋭い味わいが、冷えた身体を芯から温めてくれた。けれど一番の記憶は、翌朝の「日の出を絶対に見る」という誓いが、開始5分で崩壊したこと。最高級のリネンが肌に吸い付く、人生で一番心地よいベッドの海に抱かれ、泥のように眠り、目が覚めたときには太陽が真上にあった。私たちは盛大な寝坊という敗北感を共有し、同時に、何にも縛られない最高の充足感に浸っていた。

5年後の封印を解いたとき

きっと、料理の正確な名前や旅の行程は忘れているだろう。けれど、あの「碧(あお)」の色だけは、記憶の底に深く沈殿しているはずだ。深い森を透過し、冷たい水が時間をかけて磨き上げた、寂しくも圧倒的に美しい色。それは当時の私たちが抱いていた、言葉にできない気恥ずかしい連帯感に似ていた。写真の中の「背伸びした自分たち」を見て、ふっと口角が上がる。不完全なまま最高の場所に身を置く心地よさを知ったことは、今のあなたにとっても、静かな救いになっているはずだ。

湖畔に舞い落ちた一枚の紅葉が、静かに碧い水面に吸い込まれていった、あの瞬間のこと。

  • 新千歳空港からの送迎バスを予約し、車窓から流れる11月の寂寥感をゆっくりと味わってほしい。
  • 完璧な計画を立てるよりも、あえて「何もしない時間」を贅沢にスケジュールへ組み込むこと。