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湯気の中で、小さな手が私の袖を引いた

湯気の中で、小さな手が私の袖を引いた

黄金色の朝食と、小さなフォークの調べ

指先に伝わる陶器のじわりとした温もり。帯広天然温泉 ふく井ホテル / FUKUI HOTELの朝食会場は、まだ微睡みのなかにいる人々が、それぞれのリズムで一日を紡ぎ出していた。香ばしいコーヒーの薫香と、焼きたてトーストの甘い香りが混じり合い、空間を柔らかい繭のように包み込んでいる。老二は、和洋選べる朝食に目を輝かせた末に、洋食プレートを選択した。けれど、彼が心奪われていたのはメインの料理ではなく、付け合わせのコーンだけだった。小さなフォークで一粒ずつ、丁寧に、けれど不器用に口へ運ぶその姿を眺めていると、大人の私が抱いていた「効率」という焦燥感が、春の雪のように静かに溶けていくのがわかった。

「今日はどこに行くの?」と、隣で老大が地図を広げて意気揚々と問いかける。彼にとっての旅は、計画という線で結ばれた達成感にあるのかもしれない。けれど、私はあえて答えを保留にした。窓から差し込む柔らかな光の粒がテーブルに不規則な影を落とし、それを追いかける老二の瞳には、家族という小さなチームでここにいるという、得も言われぬ安心感が満ちていた。完璧なスケジュールなんて、実はどうでもいい。半分残されたコーンスープがゆっくりと冷めていく速度に合わせて、私たちの時間もまた、心地よく緩やかに動き出した。

冬の冷気と、炭火が踊る豚丼の香り

頬を刺すような、鋭い冬の終わりの風。ホテルを出て数分、帯広の街はまだ三月の凍てつく空気に包まれていた。厚手のコートの襟を立て、子供たちの小さな手をぎゅっと握りしめる。指先から伝わる冷たさが、かえって目的地への期待感を鮮やかに研ぎ澄ませてくれた。名物の豚丼店に近づくにつれ、炭火で焼かれた肉の香ばしい匂いが、冷たい空気を切り裂いて鼻腔をくすぐる。それは空腹さえ忘れさせるほど強烈で、どこか懐かしい、大地の熱を孕んだ香りだった。

店内に足を踏み入れると、そこは活気という名の小さな戦場だった。運ばれてきた大きな丼を前に、老二は自分の手の小ささに愕然としたらしい。「パパ、これ、持ち上げられない!」という叫び声に、周囲の客がふふっと微笑む。タレがたっぷりかかった肉を頬張り、口の周りを茶色く汚した老二の顔は、まるで帯広の街の地図をそのまま描いたかのようだった。老大は「綺麗に食べてよ」と呆れていたが、後になって鮮明に思い出すのは、きっとこの汚れた口元と、店内に充満していた熱気だろう。効率的な観光ルートを辿ることよりも、こうした想定外の騒ぎこそが、旅の本当の輪郭を形作る。私たちはただ、目の前の熱い食事を分かち合い、街の温度に溶け込んでいた。

大地の記憶に浸り、甘い夜に溶ける

足の裏に触れるタイルのひんやりとした感触。帯広天然温泉 ふく井ホテル / FUKUI HOTELの地下へ降りると、そこには外の喧騒を忘れさせる濃密な時間が流れていた。植物性天然モール温泉に体を沈めた瞬間、肌にまとわりつくような、独特のぬめりを感じる。それは太古の植物が堆積して生まれた、液体になった大地の記憶に抱かれているような感覚だった。フィンランド式サウナで火照った体に、このぬるりとしたお湯が心地よく馴染み、凝り固まった肩の力が、深い森の奥へと消えていくようにゆっくりと抜けていく。老二は最初、茶褐色の湯色に驚いて私の背中にしがみついていたが、次第にその心地よさに気づいたようで、水面をパシャパシャと叩いて笑っていた。

風呂上がり、浴衣に着替えた私たちは、目の前のセイコーマートへと向かった。夜の冷気が火照った肌に心地よく突き刺さる。店内で選んだのは濃厚なミルクプリンと、子供たちが欲しがった色とりどりのグミ。部屋に戻り、ベッドの上に円を描くように並べて分け合った。老大は眠そうに目をこすり、老二はプリンを口いっぱいに頬張って幸せそうに目を細めている。間接照明だけの静寂のなか、子供たちの規則正しい寝息が心地よいリズムを刻んでいた。

一人で窓の外に広がる夜景を眺めながら、私は思う。孤独とは寂しさではなく、自分という器を静かに満たす時間なのだと。不完全なままで、騒がしいままで、私たちはこの場所の一部になっていい。ぬるりとした湯の感触とプリンの甘い後味が、私の心に確かな居場所を刻んでくれた。

明日もきっと、誰かが何かをこぼして、みんなで笑い合う一日になるだろう。

  • 帯広駅前からのアクセスが抜群なので、まずは名物の豚丼で腹ごしらえをしてからチェックインするのが正解です。
  • 植物性天然モール温泉で心身を解きほぐした後は、セイコーマートの北海道限定スイーツで至福の夜を。