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指先に残った、少しだけ不器用な温もり

指先に残った、少しだけ不器用な温もり

陽光に照らされた、不器用な距離の始まり

四月の上川郡新得町。指先がかすかに痺れるような冷気に包まれ、シャトルの窓の外には、冬の眠りから覚めきらぬ淡い色彩の景色が流れていた。まだ雪が残る地面と、芽吹き始めたばかりの草木が混在する、曖昧な季節の色。隙間風が忍び込む車内で、隣に座る君が「本当にここで良かったのかな」と小さく呟いた。その声のトーンに、未知の場所への迷いと、密かな期待が半分ずつ混ざっているのが分かった。私も明確な答えを持っていなかったから、「分からないけど、きっと大丈夫だと思うよ」とだけ返した。サホロリゾートホテルに到着し、ロビーに足を踏み入れた瞬間、冷え切った頬をぬるい空気が優しく撫で、張り詰めていた肩の力がふっと抜ける。私たちはまだ、お互いの心地よい距離を模索している途中の、そんなぎこちない旅の始まりにいた。

木の温もりに溶け出す、静かな呼吸

北側客室に案内され、まず目に飛び込んできたのは、地元で育った木材が作り出す淡いベージュの世界だった。わかふじ寮の方々が丁寧に作り上げたという家具にそっと触れてみると、角が丸く削られており、どこか人の手の体温が残っているような、有機的な質感がある。指先でその繊細な木目をなぞっていると、心の中にあった正体不明のざわつきが、凪いだ海のようにゆっくりと静まっていくのが分かった。部屋の空気は、スウェーデン製のオキシジェンで清掃されているそうで、肺の奥まで洗われるような、ひんやりとしていて澄み切った感覚がある。それは、都会のコンクリートジャングルで吸い込んできた重たい空気とは違う、軽やかで純粋な呼吸。窓の外に広がる十勝の圧倒的なスケールの景色を眺めながら、私たちはあえて多くを語らなかった。ただ、そこに同じ空気が流れていることだけを確認し合う。そんな静寂こそが、今の私たちにはちょうどいい贅沢だった。

湯気と静寂に、心を委ねる夜

夜の帳が降りると、世界はさらにその輪郭をぼやかし、深い静寂に包まれていく。温泉に身を沈め、熱い湯が肌に触れた瞬間、日中の冷えで強張っていた指先のしびれが、ゆっくりと溶け出していく感覚に心地よさを覚えた。立ち上る白い湯気に視界が濁る中で、ふと君の肩が触れる。そのわずかな接触に、心臓の鼓動が不意に早くなる。私たちは、お互いのことをまだ全部は知らないけれど、この熱い温度だけは確かに共有できている。その後、バーで琥珀色のグラスを傾け、氷がカランと鳴る音に耳を澄ませた。部屋に戻ってから気づいたのだが、備え付けのドライヤーの風力が驚くほど弱かった。髪を乾かすのにいつまで経っても終わらず、私たちは顔を見合わせて笑いながら、普段なら避けて通りそうな、少しだけ深い、心の奥にある話を始めた。効率の悪い道具が、結果として私たちに、贅沢な対話の時間を与えてくれた。そんな不器用な偶然が、この旅の心地よさを形作っていた。

白い繭の中で、分かち合う孤独

コンフォートルームのベッドに体を沈めたとき、肌に触れたシーツの感触に驚いた。合成洗剤を使っていないというリネンは、どこか懐かしく、飾らない清潔感がある。テンピュールの枕に頭を預けると、ゆっくりと自分の形に合わせて沈み込んでいき、まるで大きな白い繭に包まれているような、絶対的な安心感に陥った。隣に横たわる君の、静かな部屋にリズムを刻む呼吸音。私たちは、完璧な関係を築こうとして、ずっと無理に歩幅を合わせていたのかもしれない。けれど、ここではその「ズレ」さえも、心地よい余白のように感じられた。足りない部分があるからこそ、そこに相手の温もりが入り込む隙間ができる。孤独は消し去るものではなく、二人で分かち合うための大切な器官のようなものだ。そう思うと、窓の外に広がる十勝の深い闇さえも、私たちを優しく守る厚い毛布のように感じられた。

夜明け前の静かな部屋で、君の手をそっと握りしめ、互いの体温を確かめ合った。

  • 地元の木材が香る北側客室で、十勝の広大な自然に身を委ねる時間を。
  • 温泉で心身を解きほぐし、あえて時間をかけて言葉を交わす夜を過ごして。