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指先に触れた風が、少しだけ冷たかった

指先に触れた風が、少しだけ冷たかった

「ここ、本当に静かだね」

「ここ、本当に静かだね」
君がバルコニーの手すりに、ゆっくりと体重を預けながら呟いた。指先が触れている金属の冷たさが、こちらまで伝わってくる気がする。
「うん。静かすぎて、自分の心臓の音が聞こえそう」
「ふふ、大げさだな」
私たちはどちらからともなく、隣り合った。肩と肩が触れるか触れないかの距離。そのわずかな隙間に、九月の冷ややかな風が、湖の湿り気を帯びて通り抜けていった。遠くでかすかに聞こえる波の音が、心地よいリズムとなって、私たちの沈黙を優しく包み込んでいた。

静寂という名の器に、心を委ねて

サロマ湖 鶴雅リゾートの和洋室に足を踏み入れたとき、まず鼻をくすぐったのは、い草の乾いた香りと、深く心地よい木の温もりだった。畳の上に裸足で立つと、しっとりとした弾力が足裏から伝わり、日常で張り詰めていた意識がゆっくりとほどけていくのがわかる。私たちはもともと、沈黙を怖がるタイプだった。会話が途切れるたびに、何か意味のある言葉を詰め込まなければならないという強迫観念のようなものがあったのかもしれない。

けれど、この空間にある静寂は、何かが欠けている空虚ではなく、二人で共有するための心地よい器のように感じられた。窓の外には、白く光るススキの穂が銀色の波のように揺れている。あのしなやかな茎は、強い風に抗わず、けれど決して折れることはない。私たちの関係も、あんなふうに、相手のリズムに合わせて形を変えられるようになればいいのに、と密かに願った。

夕暮れ時、湖の向こう側が深い橙色から紫へと溶けていく様子を眺めていた。それは単に「美しい」という言葉で片付けられるものではなく、厚手の毛布に包み込まれたときのような、圧倒的な安心感だった。不意に、二人で浴衣を畳もうとして、袖が複雑に絡まり合い、どちらが正解か分からなくなって、同時に吹き出した。そんな、どうでもいい瞬間にこそ、本当の心地よさが宿っている。

食事に添えられたサロマ湖の魚は、程よい塩気と凝縮された旨味があり、冷え始めた外気の中で、胃の奥からゆっくりと体温を上げてくれた。その後、温泉に浸かったとき、とろりとしたお湯の温度がちょうど肌に馴染み、肩の力が抜けていく。水面に浮かぶ小さな気泡が、私たちの間にあった微かな緊張を一緒に連れ去ってくれた気がした。もしかすると、私たちは答えを探して旅に出たのではなく、ただ一緒に「分からない」ままでいられる場所を探していただけなのかもしれない。

夜、布団に入って、天井の木目をぼんやりと眺めていた。隣で聞こえる君の規則正しい呼吸が、今の私にとって一番信頼できるリズムだった。完璧な二人である必要なんてない。ただ、この静かな空間に、そのままの姿で存在していいのだという感覚。それは、人生においてとても贅沢なことだと思う。

湖面に映る月が、静かに揺れていた。

  • 夕暮れ時、風に揺れるススキの原を、あえて何も話さずに二人で歩いてみて。
  • ラウンジの隅で、温かい飲み物を片手に、お互いの呼吸が重なるまでゆっくりと過ごして。