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繋いだ手のひらが、少しだけ温かかった

繋いだ手のひらが、少しだけ温かかった

玄関を開けた瞬間、氷の粒を含んだ冷たい空気が肺の奥まで突き刺さり、鼻の奥がツンとした。外はまだ、冬がしがみついているような、すべてを塗りつぶす白の世界だ。けれど、ドーミーイン帯広のロビーに足を踏み入れた途端、包み込むような暖房の柔らかな熱が、凍えていた指先をゆっくりと解きほぐしていく。子供たちが履いているブーツから、小さな雪の粒がパラパラと床に落ちていた。その乾いた音が、静かな期待と共に、私たちの旅が始まったことを告げる合図のように聞こえた。

07:45、賑やかな朝食会場

炊き立てのご飯から立ち上がる白い湯気が、視界をぼんやりと遮る。醤油の香ばしい匂いが鼻をくすぐり、心地よい空腹感が胃袋を刺激した。十勝の恵みが凝縮された「ホエー豚丼」が並ぶカウンターでは、子供たちが目を輝かせている。「僕は全部のトッピングを乗せたい!」と主張する長男のお皿の上には、山のような盛り付けが完成していた。隣では次男が、慣れない箸を器用に動かそうとして、小さな豆をコロコロとテーブルに転がしている。私はそれを笑いながら追いかけ、口元についたタレをティッシュで拭った。賑やかな会話と、食器が触れ合うカチャカチャという音が重なり合い、心地よい不協和音を作っている。完璧な静寂なんていらない。この愛おしい混沌こそが、家族というチームの正体なのだと、温かい湯気の中で確信した。

14:30、部屋という名の避難所

外を歩き回り、冷たい風にさらされた身体を、和室の畳と厚いカーペットが優しく受け止めた。裸足で踏みしめると、足裏からじわりと大地の温もりのような感覚が伝わってくる。私はベッドに深く沈み込み、午後の柔らかな光が差し込む天井を眺めた。隣では、子供たちがさっきまで持っていたおもちゃを床にぶちまけ、自分たちだけの秘密基地を作り始めている。プラスチックのブロックが床を転がる乾いた音が、静かな部屋にリズムを刻んでいた。私は、この旅を「優雅な休日」にするつもりだった。けれど、現実は違う。荷物は散らかり、スケジュールは子供たちの気分次第で書き換えられる。それでも、この限られた空間に家族全員が収まり、誰一人として不満そうにしていない。その事実が、何よりも贅沢なことに感じられた。旅の本当の目的は、目的地に着くことではなく、こうした「予定外の時間」を共有することにあるのかもしれない。

20:00、白樺の湯に溶ける時間

脱衣所で服を脱ぎ、冷えた肌を抱きしめるようにして浴室へ向かった。扉を開けた瞬間、濃密な湯気が視界を白く染め、世界から色が消えた。天然温泉「白樺の湯」の熱いお湯に身体を沈めると、皮膚の表面からじわじわと、芯の方まで熱が浸透していく。それは、冬の寒さに凍りついていた感情が、ゆっくりと溶け出していく感覚に似ていた。「あついー!」と叫びながら、お湯をパシャパシャと跳ね上げる子供たち。普段なら「静かにしなさい」と注意するところだが、ここではその騒がしささえも、白い湯気の中に溶け込んで心地よく感じられた。お湯に浸かりながら、ふと彼らの小さな背中を見た。いつの間にか少しだけ大きくなった肩。温泉の温度が、私たちを繋ぐ見えない境界線を、少しだけ低くしてくれた気がした。身体が軽くなり、心に溜まっていた小さな澱みが、お湯と一緒に流れ出していく。

23:30、夜鳴きそばと大人の静寂

子供たちが深い眠りに落ち、部屋に本当の静寂が訪れた。パジャマの袖をまくり、私たちはこっそりと「夜鳴きそば」を待つ。深夜の廊下を歩く足音が、遠くで小さく響いている。運ばれてきた一杯のそば。湯気と共に漂う出汁の香りが、一日の疲れを優しく包み込んだ。麺を啜る音だけが、静かな空間に心地よいリズムを刻む。夫と視線を交わすと、お互いに疲れ切った顔をしていたが、その口角はわずかに上がっていた。「明日、あのお店に行ってみる?」という低い声の会話。子供たちがいない、この短い時間だけが、私たちを「親」から「ただの二人」に戻してくれる。窓の外で静かに眠る帯広の街。私たちは、この小さな器の中にある温もりに感謝しながら、ゆっくりと明日への体力を蓄えた。不足しているものがあるからこそ、今ここにある温かさが、より鮮明に浮かび上がる。

明日もきっと、誰かが何かをこぼして、誰かが笑い、私たちはそれを一緒に片付けるのだろう。

  • 帯広駅からの徒歩5分の道のり、3月の冷たい風の中で子供たちが指差す小さな春の兆しを探してみてください。
  • 夜鳴きそばを食べ終えた後、家族で静かに明日のお気に入りのトッピングを相談して、眠りにつくのがおすすめです。