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まぶたの裏に、街の灯りが残っている夜

まぶたの裏に、街の灯りが残っている夜

真夜中に欲しがったのは、正解よりも贅沢な不健康

指先に触れるカードキーのプラスチックが、驚くほど冷たかった。外は2月の札幌。肺の奥まで凍りつくような鋭い空気の中で、私たちは地下通路という名の秘密のトンネルを歩いていた。JR札幌駅からホテル エミオン 札幌まで、わずか数分の距離。けれど、地上に出ることなく完結するそのルートは、まるで冬の街から切り離された温かなシェルターのようで、歩くほどに心地よい高揚感が胸に満ちていく。ロビーに足を踏み入れた瞬間、肌をなでる空気の温度が変わり、凝り固まった肩の力がふっと抜けるのがわかった。結局、誰が言い出したのかはもう覚えていない。けれど、私たちはレストランで「正解」のディナーを食べるよりも、コンビニの袋に好きなものを詰め込んで、部屋でだらしなく広げる方を選んだ。ビニール袋が擦れるカサカサという乾いた音が、今の私たちにはどんな音楽よりも心地よいBGMに聞こえていた。

溶けていく時間と、口いっぱいの甘い言い訳

「ねえ、信じられる?あんなに自信満々に地図を読んでたのに、結局逆方向に15分も歩いたこと」
「いいじゃん、あれこそ旅の醍醐味っていうか、冒険でしょ。まあ、靴の中が完全に雪でびしょびしょになったのは、完全に計算外だったけどね」

ベッドの上に、地元のポテトチップスと、少し贅沢なプリン、そしてなぜか大量のチョコレートが散らばっている。私たちはそれを囲んで、今日という日の「失敗」を競い合うように話し始めた。部屋の照明を少し落とし、暖色のランプだけが私たちを照らしている。誰かが笑いながらパッケージを開けようとして、勢い余って中身を半分ぶちまけたとき、部屋の中に一瞬の静寂が訪れた。そして、同時に堪えきれない爆笑が起きる。くだらない。本当にくだらない瞬間だ。でも、そういう不意のノイズこそが、旅という不確かな時間を定義づけている気がしてならない。

「次の街では、絶対にお互いのナビを信じないって賭けしない?」
「いいよ。負けた方が明日の朝ごはん、全部奢りね」

そんな会話をしながら、口いっぱいに甘いものを詰め込む。2月の寒さで感覚が麻痺していた身体に、濃厚な糖分と笑い声がゆっくりと染み渡っていく。誰にも見せない、誰にも評価されない、ただの贅沢な時間の浪費。けれど、この不完全な時間こそが、私たちを一番深く結びつけていた。

満たされた後の静寂という名の余白

最後の一口を飲み干すと、部屋に心地よい静寂が戻ってきた。さっきまであんなに騒いでいたのが嘘のように、今はただ、エアコンの低い唸りと、遠くで聞こえる街の呼吸だけが残っている。大浴場「Hohoemi之湯」で温まった身体の芯に、まだ心地よい熱が居座っており、それが深い安心感となって意識を包み込む。ふと窓の外を見ると、札幌の夜景が宝石をぶちまけたように広がっていた。直線と曲線が交差するホテル エミオン 札幌のモダンなデザインが、外の光を複雑に反射させている。目を閉じると、まぶたの裏に街のネオンが残像として焼き付いていた。それは、今日一日の出来事が断片的な光となって、ゆっくりと整理されていく過程のような感覚だ。不足しているものがあるからこそ、いまここにある充足感が際立つ。私たちは、何も解決せず、ただこの静かな余白を共有していた。言葉にする必要のない理解が、夜の空気に溶け込んでいる。この心地よい不確かさこそが、私たちが求めていた旅の正体だったのかもしれない。

隣で聞こえる、誰かの小さくて深い寝息が、世界で一番の安心感だった。

  • セイコーマートのホットシェフのカツ丼。深夜に食べる背徳感が最高に美味しい。
  • 札幌限定の白い恋人チップス。甘じょっぱい味が、夜の会話をさらに弾ませてくれる。