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指先が温かくなるまで、もう少しだけ

指先が温かくなるまで、もう少しだけ

「ねえ、ここ、本当に暖かいね」

「思ったより寒いね」と、君が小さく肩をすくめた。
「うん、もう冬が来てるのかもしれない」
ホテルマイステイズ札幌アスペンに足を踏み入れた瞬間、外の刺すような冷気が、嘘のように遠のいた。
「手、すごく冷たいよ」
君が僕の指先に触れたとき、その温度差に少しだけ心拍数が上がった気がした。僕たちはまだ、お互いの適切な距離を測っている途中だった。ふたりの間に流れる空気は、まだ少しだけぎこちなくて、でも心地よい緊張感に満ちていた。

呼吸が重なる速度で

JR札幌駅の北口からホテルまで、わずか2分の距離。その短い道程の間、僕たちはほとんど言葉を交わさなかった。ただ、湿ったアスファルトの匂いと、頬を打つ冷たい風が、二人の間に静かな境界線を描いていた。地下道へと足を踏み入れたとき、コンクリートの壁に反響する靴音が、僕たちの心拍数を急かすように響く。誰かが急ぎ足で通り過ぎる気配。そんな都会の喧騒の中で、隣を歩く君の、白く淡い吐息だけが鮮明に聞こえていた。もしかすると、この心地よい静寂こそが、僕たちが求めていた答えだったのかもしれない。

部屋に入り、重たいコートを脱ぎ捨てたとき、ようやく僕たちの輪郭がはっきりした気がした。クァルテットルームのゆとりある空間に、冬の午後の柔らかな光が差し込んでいる。リネンのシーツに指先を滑らせると、最初はひんやりとしていたが、すぐに体温が馴染んでいった。そのゆっくりとした速度が、なんだか僕たちの関係に似ている。急がなくてもいい。ただ、同じ温度に染まっていくのを待っていればいい。

一番記憶に刻まれているのは、大浴場での時間だ。熱いお湯に身を沈めると、指先の痺れがゆっくりと溶け出していく。それは単なる温度の上昇ではなく、心のどこかにあった強張りが、心地よい水圧に押されて消えていく感覚だった。立ち上る湯気で視界がぼやけ、隣にいる君の輪郭が曖昧になる。けれど、それでいい。はっきり見えすぎるよりも、ぼんやりとした温もりに身を任せている方が、ずっと正直な会話ができる気がしたから。

ふいに、君がタオルを畳もうとして、うまくできずにくしゃくしゃにしてしまった。その不器用な仕草を見て、僕たちは同時に小さく笑った。その笑い声が、静かな空間に心地よく響いた。完璧な旅である必要なんてない。むしろ、そういう小さな綻びがある方が、人間らしくて愛おしい。そういう瞬間こそが、後で思い出したときに一番温かい色をしているものだ。

ラウンジで飲んだ温かい飲み物の、カップから伝わる熱。それが手のひらから胸のあたりまでゆっくりと広がっていく。11月の札幌は、孤独を際立たせる街かもしれない。けれど、ホテルマイステイズ札幌アスペンに居れば、その孤独さえも、二人で分かち合える贅沢な静寂に変わる。僕たちは答えを探しに来たわけではない。ただ、この温度の中に一緒にいたいと思っただけだ。不確かなままでも、隣に誰かがいるという事実だけで、十分な気がする。

窓の外、雨粒に濡れた街路樹に灯ったイルミネーションが、宝石のように静かに揺れていた。

  • お風呂上がり、二人でラウンジのソファに深く沈み込んで、何も話さない時間を過ごしてみて。
  • 札幌時計台まで、あえてゆっくり歩いてみて。冷たい空気が、二人の距離を自然に近づけてくれるから。