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冷たい指先と、乾いたタオルの匂い

冷たい指先と、乾いたタオルの匂い

靴の底が、ホテルのタイルの上でキュッ、と高く鳴った。冷え切った外気から逃げ込んだロビーには、温かい空気と微かなアロマの香りが漂っている。次男が「雪が溶けてる!」と歓声を上げ、濡れた袖で私のコートを乱暴に拭った。じわりと伝わる冷たさ。けれど、その不意の温度こそが、いま私たちがこの場所に辿り着いたことを教えてくれる。外は刺すようなマイナス、ここは包み込むようなプラス。その境界線で、私たちは心地よい混乱に身を任せていた。



重いウールのコートを脱ぎ捨て、吸い込まれるようにベッドへ倒れ込む。パリッと張り詰めたシーツのひんやりした感触が、火照った肌に心地よく馴染んだ。ホテルマイステイズ札幌アスペンの部屋は、私たちの家族が持ち込んだ「騒がしさ」という名の荷物を、そのまま優しく受け入れてくれた。誰かが誰かの足を踏み、誰かが枕を奪い合う。そんな不協和音が、シックなインテリアの部屋に心地よい残響となって広がっていく。この適度な不自由さが、旅の充足感を深めてくれる。


地下道からホテルへ向かう道すがら、街の喧騒が厚いフィルターを通したかのように遠のいていく。エレベーターのボタンを押す指先に伝わる小さな振動と、密閉された空間に満ちる静謐な空気。上の階へ上がるたびに、頬を打った冬の寒さが記憶の彼方へ消えていく。それは完全な静寂ではなく、心地よい低周波のような安心感だった。私たちはただ垂直に移動することで、日常という重力から切り離され、家族だけの聖域へと運ばれていく。


朝食のテーブルで、真っ白な湯気がゆらゆらと立ち上がるスープ。スプーンが陶器の器に当たるカチャカチャという軽やかな音。普段は好き嫌いが多く、食事のたびに小競り合いが起きる長男が、「これ、美味しい」とぽつりと呟いた。旅先での食事は、どうしてこんなに人を素直にさせるのだろう。口いっぱいに広がる温かさが、冬の朝特有の心細さをゆっくりと塗りつぶしていく。そんな小さな充足があるだけで、この旅は十分すぎるほど価値がある。


窓の外に広がる、札幌の夜。宝石を散りばめたようなイルミネーションの光が、深い藍色の夜に溶け込んでいる。部屋の明かりを消すと、街の灯りが壁に淡い影を落とし、部屋の中を幻想的な青に染めた。子供たちが窓ガラスにぴたりと張り付き、外の光を追いかけている。その小さな背中を眺めていると、この旅を計画して本当に良かったという確信が、静かに胸に満ちてくる。光は遠くにあるけれど、隣にいる家族の体温はこんなにも近い。


クァルテットルームという、四人がひとつになれる贅沢な空間。床には脱ぎ捨てられた靴下が転がり、読みかけの絵本が口を開けている。誰がどこで寝ているのか分からないほどに、布団が複雑に混ざり合っている。この音のない喧騒こそが、私たちの家族の本当の形なのだろう。カタログに載っている整理整頓された写真よりも、ずっと愛おしく、人間らしい。隙間なく身を寄せ合っていることが、何よりも心地いい。


深夜。子供たちの規則正しい、深い呼吸音だけが部屋を満たしている。耳を澄ませると、遠くの廊下で誰かが静かにドアを閉める音がした。そのかすかな音が、かえって今の静寂をより深く、濃くしていく。私たちはただ、ここにいる。社会的な肩書きを脱ぎ捨て、ただの家族として。この静けさは、明日またそれぞれの戦場へ戻るための、大切な空白だ。誰にも邪魔されない、心地よい孤独と連帯がそこにあった。

枕元のランプを消すと、優しい暗闇が私たちを包み込んだ。

  • 札幌駅からの地下道直結ルートを活用し、冬の寒さを避けて移動すること。子供たちのストレスを最小限に抑えられます。
  • クァルテットルームでの就寝前、家族全員で布団の陣取り合戦をすること。旅の最高の思い出になります。