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窓までの歩数で測った、二人の距離

窓までの歩数で測った、二人の距離

ほどけゆく心の結び目

ロビーに足を踏み入れた瞬間、鼻腔をくすぐったのは、深い森の奥に迷い込んだときのような、しっとりとした土と針葉樹の香りだった。ウェルカムアロマというけれど、私にはそれが、丁寧に織られた柔らかなリネンの布にそっと包み込まれたような、触覚に近い安らぎに感じられた。靴を脱ぎ、ホテルの奥へと進む。足の裏に伝わる床のぬくもりが、外の冷たい風で強張っていた身体をゆっくりと解きほぐしていく。指先に触れるカードキーのプラスチックのわずかな角。その小さな違和感さえも、今の私たちには心地よい。部屋のドアを開ける直前、隣に立つ君の呼吸が少しだけ深くなったのがわかった。私たちはまだ、お互いの距離感を測りかねている。心の中にある、小さく固く結ばれた結び目を、どうやってほどけばいいのか。それを探しながら、私は静かに、けれど期待を込めてドアノブに手をかけた。その金属の冷たさが、私の高鳴る鼓動をわずかに鎮めてくれた。廊下の柔らかな間接照明が、私たちの影を長く、そして寄り添うように壁に映し出していた。

重いスーツケースのキャスターが止まる乾いた音が、静まり返った廊下に小さく響いた。カチリ、という鍵が開く音。それが、街の喧騒という長い文章に打たれた句読点のように感じられた。部屋に入った瞬間、目に飛び込んできたのは、窓から差し込む五月の午後の、黄金色に透き通った光だ。大通公園から流れ込んできた新緑の気配が、白い壁に淡い影を落としている。隣に立つ君の肩の力が、ふっと抜けるのが見えた。「綺麗だね」と小さく呟いた君の声が、心地よい温度を持って耳に届く。もしかすると、君も私と同じように、この静寂を待っていたのかもしれない。誰にも邪魔されない、ただ二人だけの空間。ふわりと漂うリネンの清潔な香りと、窓から入る微風が、心地よく肌を撫でる。空気の中に漂うかすかな香りが、緊張していた心をゆっくりと緩めていく。窓辺まで歩く君の後ろ姿を見ながら、私はこの場所が、私たちの間にあった言葉にならないもどかしさを、静かに受け止めてくれる気がした。結び目が少しずつ緩んでいく音が聞こえるような、そんな錯覚に陥った。

共有した春の余白

私たちはどちらからともなく、窓際に並んで立った。目の前に広がるのは、鮮やかな緑に塗り替えられた大通公園の景色だ。五月の札幌は空気が澄んでいて、遠くのテレビ塔までが驚くほどくっきりと見える。ちょうどバラが咲き始め、藤の花がしっとりと垂れ下がっていた。その色彩の濃淡を眺めているうちに、私たちは自然と、肩が触れ合うほどの距離にいた。誰が先に近づいたのかはわからない。ただ、そこにある静寂が、春の陽だまりのような心地よい温度を持っていた。足元のカーペットの柔らかな感触が、私たちの心の境界線をさらに曖昧にしていく。パークサイドダブルの部屋に満ちた光の中で、私たちは無理に会話をしようとはしなかった。ただ、同じリズムで呼吸をし、同じ景色を眺める。ホテルリソルトリニティ札幌のこの空間は、空っぽなのではなく、心地よい「余白」で満たされていた。完璧に分かり合えないままでも、隣にいていい。そう思わせてくれたのは、雨上がりの澄んだ空気と、部屋に満ちていた優しい香りのせいだったのかもしれない。

パークビュースパの湯気に包まれ、指先からゆっくりと体温が戻っていく。

  • 大通公園のバラと藤が最も美しい時間帯に、あてもなく散歩すること
  • 朝食の「Eatwell Breakfast」で、色鮮やかな地元の食材から今の身体が求める味を選ぶこと