← 回到 Resol 飯店 函館

靴下で踏んだ床が、意外と温かかったこと

靴下で踏んだ床が、意外と温かかったこと

玄関先で、上の子がもたついている。分厚い冬靴のジッパーがうまく上がらず、もがいている小さな足元を、私はただぼーっと眺めていた。ホテルリソル函館の心地よいシューズオフスタイル。靴を脱いで一歩踏み出した瞬間、足裏からじわりと伝わってきた床の温度に、ふっと肩の力が抜けた気がした。外の刺すようなマイナス気温に強張っていた足先が、ゆっくりと、本当にゆっくりと解けていく。それは、凍えた指先に体温が戻ってくるまでの、贅沢で心地よいタイムラグだった。


ロビーに漂うウェルカムアロマの柔らかな香りが、疲れた鼻腔を静かに撫でる。重いウールコートを脱いでハンガーにかけたとき、肩にかかっていた物理的な重みと一緒に、旅先特有の目に見えない緊張感まで剥がれ落ちた。案内されたデラックスツインの部屋に入り、開放感のある空間に家族四人が放り出される。子供たちが弾むようにベッドへダイブし、部屋の隅まで突き抜けるような笑い声が響いた。壁にぶつかるまで何歩かかるか、下の子が全力で走って確かめている。そんな、ちょっとした騒々しさが、ここでは心地よい生活のリズムに聞こえた。
窓の外から、路面電車のガタゴトという低い振動が、心地よいリズムで届いてくる。それは単なる騒音というよりは、函館という街が刻む深い呼吸に近い。部屋の中で、子供たちがもみ合いながらおもちゃを広げている喧騒の裏側で、その遠い音が静かに重なる。完全な静寂があるのではなく、異なる種類の音が層になって積み重なっている感覚。こういう瞬間、ふと思う。完璧なスケジュールなんて、最初からなくていいのかもしれない。むしろ、この予測不能なノイズこそが、旅の正体なのだと。
翌朝の「Eatwell Breakfast」。湯気が白く立ち上る味噌汁の香りが、まだ半分眠っている意識をゆっくりと呼び起こす。管理栄養士さんが監修したという、色鮮やかなアイコン付きのメニューを前にして、下の子が「これはパワーが出るやつ!」と指差して笑っている。口に運んだ地元の食材の、濃いけれど雑味のない滋味深い味わい。温かい食事が胃に落ちていくたびに、体の芯からじんわりと熱が広がっていく。空腹を満たすことよりも、家族で同じ温度のものを分かち合っているという感覚に、言いようのない安心感を覚えた。
午前六時の部屋は、深い藍色に包まれている。マリンランプが落とす、淡くて静かな光と影のコントラスト。その揺らぎを眺めていると、時間の流れ方が緩やかになったような気がした。外はまだ雪が舞い、世界が白く塗りつぶされているけれど、この部屋の中だけは、深い海の底にいるみたいに穏やかで安全だった。子供たちがまだ夢の中にいる、規則正しい寝息と横顔を眺めながら、私はただ、この青い時間がもう少しだけ続けばいいなと願った。
ポケットに入っていた、バレンタインに買った小さなチョコレート。それを下の子に分けたとき、指先に触れた包み紙の、カサカサとした乾いた音。梅まつりの途中で見つけた、小さな梅の花びらがコートの袖にひっそりと張り付いていた。そんな、取るに足らない、誰にも気づかれないような記憶の断片。でも、後で鮮明に思い出すのは、豪華な景色よりも、こういう指先の感触や、耳を澄ませないと聞こえない小さな音だったりするものだ。
深夜、ようやく子供たちが寝静まった後の、濃密な静寂。幅百四十センチのベッドに身を沈めると、シーツのパリッとした清潔な感触と、適度な柔らかさが体を優しく包み込む。隣で夫が小さく、穏やかな寝息を立てている。さっきまでの嵐のような騒がしさが嘘のように、今はただ、お互いの体温だけがそこにある。もしかしたら、旅の本当の目的は、こういう「一緒に静かになれる時間」を共有することだったのかもしれない。明日もまた、きっと賑やかで、めちゃくちゃな一日になるだろう。

明日もきっと、靴を脱いだ瞬間のあの温もりに救われるはずだ。

  • 子供と一緒に、路面電車の揺れを体感しながら、あえて目的地の決めない散歩に出かけてみてください。
  • ホテルのシューズオフスタイルを活かして、家族で裸足のまま、誰が一番早く部屋の隅まで行けるか競争してみてください。