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午前二時の貨物列車が残した余韻

午前二時の貨物列車が残した余韻

誰が夜食なんて欲しがったのか

11月の富良野を刺す風は、金属のような冷たい味がした。駅からラビスタ富良野ヒルズまで歩くわずか数分という距離さえ、厚手のコート越しに体温がじわりと奪われていくのがわかる。私たちは、誰が一番に限界を迎えるかという、子供のようなくだらない賭けをしていた。結果的に、駅前のコンビニで温かい飲み物を買い込んだ時点で、全員が完敗だった。ホテルのロビーに足を踏み入れた瞬間、外の凍てつく冷気と室内の柔らかな温もりが激しく衝突し、視界がわずかに白く滲む。その温度の境界線に立っていると、ようやく旅の目的地に辿り着いたという実感が、足首あたりからゆっくりとせり上がってくる感覚があった。デラックスツインの部屋に荷物を放り出したとき、ふと思い出したのは、このホテルで提供される深夜の無料ラーメンの存在。誰が言い出したのかはもう覚えていないけれど、私たちは吸い寄せられるように、深夜の食欲という名の甘い共犯関係に陥っていた。

湯気の向こう側で交わす、不格好な本音

「ねえ、さっきの駅前での震え方、完全に生まれたての小鹿だったよね」

湯気の向こう側で、友人がニヤニヤしながら麺をすすっている。私は、無料のラーメンが予想以上に濃厚なことに驚きながら、わざとらしく深い溜息をついた。

「あれは震えてたんじゃなくて、寒さという名の周波数に同調してただけ。というか、君こそ鼻水垂らしてたじゃない」

私たちは、部屋の小さなテーブルを囲んで、互いの失態を丁寧に掘り起こしては笑い合う。デラックスツインの部屋は、深夜の静寂を吸い込むほどに心地よく、足元のカーペットは、歩くたびに足首を優しく飲み込んでいくような贅沢な厚みがあった。大浴場の「紫雲の湯」で芯まで温まった後の体には、この深夜の塩分がちょうどいい。窓の外を見れば、貨物駅のコンテナが月明かりの下で静かに並んでいる。時折、遠くでガタンと重い音が響き、それが部屋の中に低い残響となって流れ込んできた。その音は、まるで音楽の休止符のように、私たちの会話に絶妙な間を作ってくれる。

「まあ、いいじゃん。結果的にこのラーメンのおかげで、明日も早起きして十勝岳を眺められるし」

「早起き?無理に決まってるでしょ。私たちは、この心地よい温度の中で、泥のように眠る権利があるんだから」

そう言いながら、誰かが無料のアイスクリームを皿に出した。温かいラーメンの後に、冷たい甘さが舌の上でゆっくりと溶けていく。その激しい温度差が、なんだか今の私たちの関係性に似ている気がした。遠慮なく言い合えるけれど、根底には揺るぎない信頼がある。そんな、不揃いなリズムの心地よさに、私たちは深く身を委ねていた。

満たされた胃袋と、贅沢な空白

食事が終わり、食器が片付けられた後の部屋には、濃いめの静寂が降りてきた。誰一人として、無理に言葉を繋ごうとはしない。ただ、暖房の低い唸り音と、遠くを走る列車の微かな振動だけが、この空間の輪郭を形作っている。ベッドに体を沈めると、リネンの清潔な香りが鼻をくすぐり、重い布団が、外の世界の冷たさを完全に遮断してくれた。天井を見上げていると、昼間に見た紅葉の鮮やかな赤が、瞼の裏に薄く残っている。それは、激しい感情というよりは、静かに消えていく音の残響に近い。私たちは、同じ空間にいながら、それぞれが自分の孤独という名の心地よい殻に閉じこもっている。けれど、その孤独は決して寂しいものではなく、むしろ隣に誰かがいることで完成する、贅沢な空白のようなものかもしれない。富良野の夜は深く、そして驚くほどに静かだ。その静寂こそが、旅の途中で見つけた一番の贅沢だったのかもしれない。

窓の外で、最後の一編成の列車が静かに遠ざかっていく音がした。

  • 地元のコンビニで売っている、濃厚なミルク系のスイーツ。深夜の静寂にぴったりです。
  • 富良野産のジャガイモを使った、塩気の強いスナック菓子。ビールのお供に最適です。