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濡れたウールの匂いと、深夜の唐揚げ

真夜中の密約、誰が「お腹空いた」と言ったっけ

指先に触れるカードキーのプラスチックが、驚くほど冷たく、硬い。ロビーの自動ドアが開いた瞬間、肺の奥まで凍りつかせるような鋭い空気が入り込み、呼吸が浅くなる。外気は氷点下。私たちは、誰が言い出したかも定かではないまま、深夜のコンビニへと向かうという「小さな冒険」に出ることにした。ルートイングランティア函館駅前から駅方面へ歩くわずか数分の道のり。けれど、二月の函館の風は、単なる気流ではない。それは皮膚を薄く削り取るような、ざらついた質感を持つ刃物のようだった。足元の雪は、踏みしめるたびにギュッ、ギュッという、どこか懐かしくも冷徹なリズムを刻んでいる。視界の端で舞う雪の結晶が、街灯のオレンジ色の光に照らされて、一瞬だけ宝石のようにきらめいた。結局、誰かが「もう限界」と悲鳴に近い声を上げたところで、私たちは逃げ込むように店に飛び込み、湯気を立てる唐揚げと地元の銘菓をかき集めてホテルへと急ぎ足で戻った。濡れたウールのコートから立ち上る、湿った羊の匂い。それが部屋の暖房で温められ、空間に充満したとき、私たちはようやく、自分たちがこの極寒の地で「生きている」ことを実感したのかもしれない。

揚げたての幸福と、咀嚼しながら交わした言い合い

「ねえ、そもそも梅まつりに行こうって言い出したの、誰だっけ。結果的に、私たちはホテルのベッドの上でコンビニの唐揚げを頬張ってるんだけど」

誰かが、口いっぱいに黄金色の唐揚げを詰め込んだまま、ぼんやりとした口調で言った。部屋の明かりを消した暗がりのなか、VODルームシアターの画面だけが青白く明滅し、私たちの顔を不自然な色に染めている。予定していた観光ルートは、ほぼすべて白紙になった。バレンタインの喧騒も、節分の豆まきも、今はどこか遠い国の出来事のように感じられる。

「いいじゃん。だって、外に出た瞬間に『あ、無理』ってなったし。それこそが旅の醍醐味でしょ」

「言い訳がすぎるよ。私たちはただ、函館の風に完敗しただけ」

そんなくだらないやり取りをしながら、私たちは狭いシングルベッドに肩を寄せ合い、コンビニの袋から次々と戦利品を取り出した。指先がまだ芯まで冷えていて、お菓子の袋が思うように開かない。もどかしさに耐えかねて、誰かが歯で袋を破ろうとした瞬間、中身がパサリとベッドの上に散らばった。その情けない光景に、部屋中に弾けるような笑い声が広がった。完璧な旅なんて、きっと退屈で仕方ない。計画通りに動くよりも、こうして深夜に、誰の目も気にせずにジャンクフードを頬張り、くだらないことで笑い合う時間の方が、ずっと「私たちらしい」気がする。誰かがWOWOWのチャンネルを切り替え、画面の中の知らない誰かの人生を眺めながら、私たちはまた、明日という日の「適当な計画」について、心地よい倦怠感とともに話し始めた。

満たされた胃袋と、溶け出す静寂の余韻

食後、私たちはルートイングランティア函館駅前の天然温泉に浸かった。熱い湯が肌に触れた瞬間、張り詰めていた神経が、ゆっくりと、けれど確実にほどけていく。それは、凍りついた湖の氷が、春の陽気に押されて静かに割れていくような感覚に近い。湯気に包まれ、意識がぼんやりと溶けていく。お風呂から上がり、部屋に戻って布団に潜り込んだとき、心地よい「タイムラグ」が訪れた。温泉の熱が体の芯まで浸透し、指先の冷たさが消え、体温がゆっくりと上昇していく。その時間的なズレが、意識を心地よく朦朧とさせた。120センチのシングルベッドは、今の私たちには十分すぎるほど贅沢なシェルターだった。外ではまだ、冷たい風が建物を激しく叩いているのかもしれない。けれど、この厚い布団と、隣で聞こえる友人の規則正しい寝息があれば、世界は驚くほど安全な場所に思える。欠けていたものは、きっと何かを埋めるためのスペースだったのだ。心地よい疲労感だけが、重力のように私たちをベッドの深みへと沈めていく。意識が途切れる直前、遠くで聞こえた車の走行音が、子守唄のような心地よいノイズとなって耳に残っていた。

温かい湯気に包まれて、私たちはただ、深い眠りの海へと落ちていった。

  • 函館のコンビニで買える、イカの塩辛味のスナック菓子。深夜の静寂に、その塩気が心地よい。
  • 地元の濃厚なミルクプリン。温泉上がりの火照った体に、冷たい甘みが贅沢に染み渡る。