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広い部屋で、誰かのあくびが重なったとき

広い部屋で、誰かのあくびが重なったとき

畳に触れる足の裏が、心地よくひんやりとしていた。帯広リゾートホテルにチェックインし、部屋の扉を開けた瞬間、次男が「ひろーい!」と歓声を上げて走り出した。い草の清々しい香りが鼻をくすぐり、広い和室にポンポンと跳ね返る小さな足音が、まるで即興の打楽器演奏のように響き渡る。荷物を広げることさえ忘れ、私たちはただ、目の前に広がる贅沢な空間に、心まで解き放たれた気分だった。完璧な旅の計画なんて、最初からなくていい。この部屋のゆとりは、家族のわがままをすべて優しく包み込んでくれる、心地よい余白のようなものだと思った。



琥珀色に澄んだ、濃い茶色のお湯。名物のモール泉に体を深く沈めると、肌の表面に薄い絹の膜が張ったような、滑らかな感触が全身を包み込んだ。次男が「チョコのお風呂だ!」とはしゃいで、白い湯気を上げながらお湯を跳ね上げている。大人はただ、肩から指先までゆっくりと重力が消えていく感覚に身を任せていた。ひんやりとした外気と、芯まで温めるお湯の温度差が心地よく、凝り固まった日常の緊張が、ぬるぬるとした質感とともに静かに溶け出していく。ここは、心まで洗い流してくれる聖域のようだった。


白樺並木を歩いていると、耳の奥にサササという、とても細く繊細な音が届いた。冷たく澄んだ十勝の風が、白い幹の間を通り抜けていく乾いた音だ。子供たちがその音を追いかけて駆け出し、振り返ると、真っ白な木々と突き抜けるような青い空のコントラストが鮮やかに目に飛び込んでくる。誰が誰を追いかけているのかさえ曖昧な、心地よい混乱。その音の重なりは、丁寧に調律された楽器のように、私の乱れていた心を静かに整えてくれた気がした。


口の中に広がる、濃厚なバターの塩気と、あんこの深い甘み。柳月で出会ったあんバタの、あの独特で完璧な調和に、思わず溜息が漏れる。次男の口の周りが茶色く汚れているのを見て、長男が小さく笑った。甘いものは、時にどんな言葉よりも早く、人と人を結びつけてくれる。それは決して派手な贅沢ではないけれど、その一口が、旅の記憶に鮮やかな色彩を添えてくれた。味覚というものは、いつか思い出したときに、その場所の温度や空気感まで再現してくれる不思議な装置なのだ。


グランピングのドーム型テントに横たわり、透明な天井越しに夜空を見上げる。星の光が、砕いたダイヤモンドの粒となって降り注いでいた。次男が小さな手を伸ばして「星を捕まえたい」と、プラスチックの壁をぺたぺた触っている。その無垢な仕草が可笑しくて、私たちは声を潜めて静かに笑い合った。夜の空気は刺すように冷たいけれど、厚い毛布にくるまった体温だけが、確かな正解としてそこにある。空の圧倒的な広さが自分たちの小ささを教えてくれるけれど、それが不思議と深い安心感に変わる夜だった。


ホテルのコミックコーナーで見つけた、少しページが焼けた古い漫画。それを親子で肩を寄せ合って読む時間は、どんな高級なアクティビティよりも贅沢に感じられた。古紙特有の懐かしい匂いと、時折聞こえるページをめくる乾いた音。普段はスマートフォンの画面に吸い込まれている視線が、ここではゆっくりと、同じ物語の行間を辿っている。共通の笑いどころを見つけたとき、言葉にしなくても心がつながっている感覚があった。そういう、ささやかな共有こそが旅の正体なのかもしれない。


十八畳の広い部屋に、誰がどこで寝ているのか分からないほど、布団が散らばっている。遠くの方で、誰かが小さくあくびをした。それが合図だったように、一人、また一人と、深い眠りの海へと落ちていく。規則正しい呼吸の音が、部屋の隅々まで満たしていく。この静寂は、単なる音の不在ではなく、家族という信頼に満ちた心地よい残響だ。明日にはまた、騒がしい日常が始まるけれど、今はただ、この温かい暗闇の中に溶けていたいと願った。

靴を脱いだまま、深い安らぎに包まれて眠りに落ちる瞬間。

  • 子供と一緒に、モール温泉の不思議な色と、つるつるした触感に驚いてみるのがおすすめ。
  • 白樺並木をゆっくり散歩した後は、地元のあんバタスイーツで甘い休息時間を過ごしてほしい。