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朝七時の風に揺れる銀色のススキ

朝七時の風に揺れる銀色のススキ

鼻先をかすめる、少しだけ冷たい風。9月の札幌は、空気がピンと張り詰めている。私たちは誰が一番先に「寒い」と言うか賭けていた。結果、大通駅から札幌ビューホテル 大通公園へ歩き出して3分で、全員が肩をすくめていた。負けなし。最高に効率的な敗北。そういう不毛な時間が、一番心地よかったりする。



石窯から漂う、香ばしい肉の匂い。レストラン「オードリー」の朝食。目の前で仕上げられるオムレツの、あの絶妙な弾力と黄金色の輝き。口の中でとろける感覚が、眠っていた意識をゆっくりと引き摺り出す。北海道の味が身体に染み込むとき、ようやく目が覚めた気がした。コーヒーの深い苦味が、思考の輪郭をはっきりさせていく。


「その格好、完全に観光客じゃん」という誰かの、容赦ない毒舌。秋祭りの喧騒の中、お互いのファッションセンスを叩き合う。心地よい不協和音。それが私たちの合言葉みたいなもの。誰かが恥をかくことで、場の緊張が緩む。そのリズムが、旅のテンポを決めていた。


コモレビラウンジの、しっとりした空気感。北海道のお菓子を口に放り込みながら、誰が一番贅沢な顔をしているか競い合う。大画面の風景と最新の音響が流れているけれど、私たちはそれよりも、隣の友人が口の端にクリームをつけていることに集中していた。そういうくだらない観察こそが、旅の正解かもしれない。


窓の外に広がる、大通公園の銀色。ススキが風に揺れ、さらさらと囁き合っている。胸の奥が、かすかに震える感覚。静寂には重さがある。それを共有できる相手が隣にいるというのは、案外、贅沢なことなのだろう。言葉にしなくても伝わる、ある種の共犯関係のような心地よさ。


裸足で踏んだタイルの、ひんやりとした温度。スタンダードツインルームに戻り、深いベッドに身体を沈める。都会のノイズが遠のき、自分の呼吸の音だけが輪郭を持って聞こえてくる。シーツのパリッとした感触と、清潔なリネンの香りが、一日中歩き回った身体を静かに受け止めてくれる。ここにある空白が、心地いい。


月見の夜、予定になかった路地裏に迷い込む。地図を読み間違えた誰かを全力で笑いながら、それでも笑いが止まらない。迷うことこそが、この旅のメインディッシュだった。予定通りにいかないことへの心地よさを、私たちは知っている。不便さは、最高のスパイスだ。


旅の終わり。足りないものばかりを探していたけれど、この不完全な時間こそが、今の自分を形作っている気がする。正解なんてなくていい。ただ、札幌ビューホテル 大通公園の窓から見たあの景色が、今の私たちにはちょうどよかった。思い出というよりは、身体に刻まれたリズムのようなもの。

指先に残る、冷たい夜風の記憶。

  • オードリーのオムレツは、絶対に見逃さないで。あの弾力は反則級。
  • コモレビラウンジで、あえて何もしない時間を過ごしてみて。