← 回到 祝之宿 登別格蘭飯店

浴衣の袖が床を擦る、小さくて不器用な音

心に刻まれた、旅の一日の調べ

廊下の古びた木の床に、ぶかぶかの浴衣の袖が「シュッ、シュッ」と擦れる音。次男が自分の歩幅に合わせようとして、何度も裾を踏んでは「おっとっと」とバランスを崩している。足元から伝わる木の冷たさと、肌に触れる綿の柔らかい感触が、旅の始まりを告げていた。完璧な家族旅行なんて無理だったけれど、この不器用な歩調こそが、今の私たちにちょうどいいリズムなのだと感じる。

ビュッフェコーナーで、分厚いステーキが鉄板の上で「ジューッ」と激しく鳴る音。長女が「一番大きいお肉がいい!」と、小さな指で真っ直ぐに主張している。立ち上る白い湯気と、濃厚なバターの香りが鼻をくすぐり、食欲を激しく刺激する。お皿がカチャカチャとぶつかり合う賑やかな喧騒の中で、私たちはなんだか、美味しい目的地を目指して突き進む小さなチームになった気分だった。

祝いの宿 登別グランドホテルの湯船に肩まで浸かったとき、耳のすぐ横で「ポチャン」と小さな水音が跳ねた。子供たちが誰が一番高くお湯を飛ばせるか、真剣に競い合っている。濃厚な硫黄の香りが肺の奥まで入り込み、冷え切っていた指先がじわじわと、熱い針で刺激されるように解けていく。ここでは、誰かが笑い、誰かがお湯を被る。ただ一緒に濡れているだけで、心まで溶け合う十分な時間が流れていた。

深夜、ふかふかのベッドに体が深く沈み込む「ボフッ」という鈍い音。疲れ果てた子供たちが、布団に潜り込むなり、規則正しい深い呼吸を始めた。部屋の隅には使い切ったタオルが山のように積み上がり、脱ぎ捨てられた靴下が転がっている。琥珀色の間接照明に照らされたその乱雑な光景が、今日一日を全力で使い切った証拠のように見えて、なんだか少しだけ誇らしい気持ちになった。

窓の外で冷たい冬の風が鳴っている夜、大人の二人だけが交わす「ふぅ」という、短くて深い溜息。温かいお茶のカップを両手で包み込み、指先に伝わる熱を確かめながら、「まあ、なんとかなったね」と小さく笑い合う。明日になればまた、戦場のような日常に戻るのかもしれないけれど、今のこの静寂だけは、誰にも邪魔されたくない、私たちだけの特別な聖域な気がした。

枕元に残った、小さくて温かい手の跡。

  • 祝いの宿 登別グランドホテルのビュッフェでは、北海道産の乳製品をたっぷり使ったデザートを、子供と一緒にゆっくり味わってみてほしい。
  • 3月の登別はまだ冬の顔をしている。外を歩くときは、あえて少し厚手の靴下を履いて、足元の冷たさと温泉の熱さの対比を楽しんで。