← 回到 祝之宿 登別格蘭飯店

湯気の中で、誰が一番に溶けたか

静寂に溶ける時間、喧騒に踊る心

湿った杉の香りと、かすかに混じる硫黄の匂い。祝いの宿 登別グランドホテルのロビーに足を踏み入れたとき、まず耳に届いたのは、高い天井へと吸い込まれていく静かな話し声だった。足元の絨毯は驚くほど厚く、一歩踏み出すたびに足首まで深く沈み込む。外の冷たい空気が、上着の肩口にまだしがみついているのがわかった。「ああ、やっと着いた」と心の中で小さく呟く。ここにある静寂は、単なる無音ではなく、長い年月をかけて積み上げられた歴史の重みがある。琥珀色の照明が、空間の密度をより濃く、心地よく演出していた。

「賭けていいよ、絶対誰かパスポート忘れてる」なんて言い合いながら、私たちは大荷物を抱えてロビーになだれ込んだ。結果的に忘れたのはパスポートじゃなくて、誰かの充電器だったけれど。チェックインを待つ間、誰が一番に緊張して挙動不審になるかを密かに競い合う。見上げた豪華なシャンデリアの煌めきに「やりすぎじゃない?」と笑い合い、重いスーツケースを転がすガタガタという音が、静まり返った空間に快活に響く。その騒がしさが、ホテルの整いすぎた空気を心地よくかき混ぜているようで、私たちはただただ気分が高揚していた。

舌で味わう至福、心で分かち合う笑い

目の前で焼かれるステーキの、じゅわっという激しい音が耳に残っている。ナイフを入れた瞬間に溢れ出した肉汁が、北海道産の濃厚なバターと混ざり合い、芳醇な香りが鼻腔をくすぐった。ミディアムレアの断面は鮮やかなルビー色で、口に運ぶと、熱さと柔らかさが同時に押し寄せてくる。付け合わせの地元の野菜は、噛むたびに春の土の力強い味がした。味覚が極限まで研ぎ澄まされ、ただ食べるという行為が、日常で擦り切れた自分を取り戻すための神聖な儀式のように感じられた。温度がゆっくりと下がるまで、最後の一口を丁寧に慈しんだ。

「作戦会議、開始!」の合図とともに、私たちはビュッフェという名の戦場に飛び出した。誰がどの料理を確保し、どうやって皿の上に美食の山を築くか。効率的に最高のカットの肉をゲットしようとする執念と、ついつい色鮮やかなデザートに目移りして皿をパンパンにする矛盾。隣の友人が、盛り付けすぎた料理を崩さないように、まるで爆弾を運ぶかのように慎重に歩く姿が面白くて、私たちは食事中ずっと、くだらないことで笑い転げていた。お腹がいっぱいになることよりも、このカオスな状況を共有していることの方が、ずっと贅沢な味がした。

私たちが唯一、口を揃えて認めた真実

4月の登別の空気は、まだ鋭い。外に出れば、頬を刺すような冷たさが残り、吐く息は白く濁っている。けれど、祝いの宿 登別グランドホテルの温泉に身を浸けた瞬間、世界との境界線が消えた。42度のお湯が肌に触れたとき、指先の強張りがゆっくりとほどけ、凝り固まった思考が白い湯気に溶けていく。お湯に浸かりながら、私たちはほとんど喋らなかった。ただ、隣に誰かがいるという気配と、絶え間なく湧き上がる湯気だけがある。冷たい外気と熱いお湯。その激しい温度差に身を任せていると、自分という輪郭がぼやけ、ただの心地よい塊になったような感覚に陥る。

湯上がりの冷えた空気の中、喉を鳴らして飲み干した水の、あの鋭い清涼感だけが今も鮮明だ。

  • 温泉後の休憩スペースで、あえて言葉を捨て、ただ静寂に身を委ねる15分を。
  • ビュッフェのステーキは、焼き上がりの音に耳を澄ませ、最速で確保するのが鉄則。