← 回到 松本樓飯店

小さな手が、私の指をぎゅっと握ったとき

小さな手が、私の指をぎゅっと握ったとき

車の中で、下の子がふと尋ねた。「温泉って、どこから湧いてくるの?」と。私たちはしばらく考え込んだけれど、明確な答えは出せなかった。結局、「地面の下に、温かい魔法の川が流れているのかもしれないね」という、あまりにも不正確で、けれど心地よい空想の回答で納得してもらうことにした。

家族での旅というのは、往々にして緻密なチーム作戦のようなものだ。誰かが靴下をなくし、誰かがお菓子をこぼし、誰かが「もう歩けない」と絶望的な宣言をする。そんな喧騒の中、ホテル 松本楼に到着したとき、上の子が自分なりに手伝おうと、自分の体よりも大きなスーツケースを一生懸命に引いていた。けれど、ロビーに入る直前、ふと電池が切れたように動きを止め、そのまま荷物の上にどさりと座り込んでしまった。その拍子に、小さな足がぶらぶらと揺れていた。その光景を見たとき、予定通りに進まない旅こそが、後で一番鮮やかに思い出す景色になるのだと気がした。

チェックインを待つ間、和風の趣が漂うロビーのソファに深く腰掛け、ウェルカムドリンクを味わう。フロントに並ぶのではなく、スタッフの方がこちらまで来てくれる心地よさ。それは、誰かに急かされることなく、ただそこにいていいという静かな肯定感に似ていた。3月の外気はまだ刺すように冷たいけれど、館内に一歩足を踏み入れた瞬間に触れる空気の温度が、強張っていた肩をゆっくりと解いていく。展望露天風呂へと続く期待感に胸を膨らませながら、緩やかな時間の流れに身を任せる贅沢に浸った。

家族の記憶に刻まれた5つの断片

極厚のマットレス:31センチという圧倒的な厚みが、体をゆっくりと深く飲み込んでいく感覚。上の子がベッドに飛び込んだとき、まるで雲に吸い込まれたような低い音がして、私たちは顔を見合わせて笑った。一番下の子が、最初に「ここ、ふかふか!」と叫んで、そのまま丸まって眠りについた。

結露したグラス:指先に伝わるひんやりとした湿り気と、ガラスの縁で小さく虹色に分かれていた光の屈折。外の景色を眺めながら、冷たい飲み物が喉を通る瞬間の心地よい刺激。パートナーが、ふと「やっと着いたね」と呟いたときの、安堵したような声のトーンに気づいたのは私だった。

ぶかぶかの浴衣:袖が床に擦れる、カサカサという乾いた音と、糊のきいた生地の少し硬い感触。子供たちがそれをマントに見立てて廊下を走り回り、館内が小さな祭りのような騒がしさに包まれる。上の子が、自分の袖をひらひらさせて「魔法使いになった」と誇らしげに笑った瞬間、家族の心が一つになった気がした。

朝食会場の白い湯気:炊きたての米の匂いと、出汁の香りが混ざり合い、視界が白く滲む温かな空間。誰が先に好きな料理を盛り付けるかという、静かだけれど真剣な競争。私が、子供たちの皿に黄金色の卵焼きを乗せるタイミングを計っていたとき、ふと隣で祖母が満足そうに頷いているのに気づいた。

霞んだ山々の輪郭:3月の空気はまだ冷たく、窓の外に広がる上州の山々が淡い青色に溶けている。春分が近づき、光の角度がわずかに変わる瞬間の、透明感のある静けさ。祖母が、冷たいガラスに額を寄せて「もうすぐ桜が咲くわね」と小さく微笑んだとき、冬が終わる音が聞こえた気がした。

シャンプーの香りと、半分眠ったままの子供たちの笑い声が、部屋の中に柔らかく満ちている。

  • 朝の澄んだ空気の中、ホテルから徒歩15分の石段街をゆっくりと散歩して、春の足跡を探してみてください。
  • 朝食バイキングでは、地元の食材を使った温かい料理を、家族でゆっくりと味わう時間を大切に。