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畳の上に落ちたコンビニ袋の乾いた音

畳の上に落ちたコンビニ袋の乾いた音

真夜中に誰が食欲を呼び覚ましたか

2月の渋川駅に降り立った瞬間、肺の奥まで凍りつくような鋭い空気が流れ込んできた。指先がじりじりと冷え、感覚が鈍くなっていく。そんな中で私たちが選んだのは、あえての「色浴衣」だった。生地の少しざらついた質感が肌に触れるたび、日常から切り離された心地よい緊張感が走り、自分が旅人であることを強く意識させられる。駅からのわずか数分の道のりさえ、冷たい風に煽られて、まるで異国に迷い込んだような錯覚に陥った。

けれど、そんな張り詰めた空気は、コンビニの自動ドアが開いた瞬間に霧散した。私たちは「地元の味を制覇しよう」という、後から考えればかなり分別のない賭けに乗り、カゴいっぱいに温泉まんじゅうや、見たこともない奇妙な名前のスナックを詰め込んだ。ビニール袋がカサカサと乾いた音を立てるたび、誰かが「買いすぎじゃない?」と呟くけれど、誰も止める気はなかった。むしろ、その過剰さこそが旅の醍醐味なのだと、密かに合意していた。伊香保温泉 心に咲く花 古久家 / Kokuya Ryokanにチェックインし、案内された部屋の畳にその袋を乱暴に放り出したとき、その音が、この旅の本当の始まりを告げる合図のように響いた。

咀嚼の合間にこぼれ落ちた、どうでもいい真実

「ねえ、実のところ、このまんじゅうの量、正気?」

畳の上に広げられた、色とりどりのパッケージ。和モダンな部屋の柔らかな照明が、コンビニの派手なロゴを不自然に照らし出している。私はもさもさと温泉まんじゅうを口に運んでいた。甘いあんこの香りが、静かな部屋の中にゆっくりと広がっていく。

「いいじゃん。だって、ここに来たらこれを食べるのが正解なんだよ」

「正解っていうか、ただの食い意地でしょ。っていうか、見てよこの形。丸すぎて、もはや川原の小石みたいじゃない?」

そう言いながら、私はふと気づいた。実はコンタクトレンズを入れるのを忘れていたせいで、視界がぼやけていたのだ。目の前にあるまんじゅうが、本当に滑らかな川原の石に見えていて、それをそのまま口に運ぼうとしていたことに、今さら気づいて小さく笑った。友人はそれを聞いて、「やっぱりあんたはどこか抜けてるよね」と、呆れたように、でも心地よさそうに笑った。

私たちは、豪華な会席料理でお腹がいっぱいだったはずなのに、なぜかこの時間になると、胃袋の別の部屋が口を開ける。上州牛の濃厚な余韻がまだ舌に残っているはずなのに、口の中にあるのは安っぽい塩味のチップス。けれど、それがいい。誰にも見られない部屋で、一番かっこ悪い格好をして、一番どうでもいい話をすること。それは、洗練された旅のしおりには決して載っていない、私たちだけの最高の贅沢だった。

「次の休み、またここに来る賭けしない?」

「いいよ。その代わり、次はあんたが全部運んでね」

そんな会話が、夜の静寂に溶けていく。部屋の隅にあるランプの光が、琥珀色の長い影を畳に落としていた。その影が、私たちの笑い声をゆっくりと飲み込んでいくのが分かった。

満腹のあとに訪れる、透明な静寂

お菓子が尽き、会話も自然と途切れた。残ったのは、飲み干したお茶のぬるい温度と、心地よい倦怠感だけだ。私たちは、伊香保温泉 心に咲く花 古久家 / Kokuya Ryokanの露天風呂付き客室の湯に身を浸しに行った。黄金の湯の温度がちょうどよく、冷え切っていた指先からゆっくりと熱が浸透していく。肌が柔らかくなり、心の境界線まで溶けていくような感覚。2月の伊香保の夜は深いけれど、このお湯の中にいるときだけは、外の寒さが遠い世界の出来事のように感じられた。

ふと思った。私たちの関係は、きっとこの季節の梅に似ている。凍てついた土の下で、誰にも気づかれずに、じっと時間を待つ小さな種。外側は冷たく、硬い殻に覆われているけれど、内側では静かに、けれど確実に、弾ける瞬間を待っている。誰に褒められるわけでもなく、ただそこに在ること。そして、ある日ふいに、凍った地表を押し上げて、淡い色の花を咲かせる。派手さはないけれど、その強さは、どんな春の花よりも確かなものだ。私たちは、お互いに多くを語らないけれど、この静寂を共有できることに、ある種の安心感を抱いている。言葉にする必要のない信頼というものは、きっとこういう温度のことなのだろう。

部屋に戻り、布団に潜り込む。シーツのパリッとした冷たさが、火照った体に心地いい。窓の外では、冬の風が木々を揺らしている音が聞こえる。でも、ここでは誰も急ぐ必要はない。ただ、このまま心地よい眠りに落ちるだけでいい。明日になればまた、あの石段街を歩き、誰にでも見せる「いい顔」に戻るけれど、今夜だけは、この不格好なままでいられる。

明日起きたとき、枕元にまんじゅうの袋が一つだけ、忘れ物のように残っているかもしれない。

  • 渋川駅近くのコンビニで買う、地元の銘菓「温泉まんじゅう」。温かいうちに頬張るのが正解。
  • 地域の銘菓を組み合わせた、自分たちだけの「伊香保夜食プレート」を畳の上で再現すること。