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温泉の底で光る、足の裏の記憶

温泉の底で光る、足の裏の記憶

到着前の3つの疑問

私たちが渋川に向かったのは、11月の紅葉とイルミネーションを見るためだった。でも列車の窓から見えたのは、予想以上に暗い群馬の山並み。
「降りる駅間違えた?」と言ったのは、計画好きのAだ。
「いや、渋川駅だ。でもこの暗さじゃ紅葉も見えないかもな」とBが答える。
私だけが「到着してから考えよう」と呟いて、3人とも黙り込んだ。

列車が渋川駅に着いた時、外の空気はすでに冷たかった。駅前のコンビニで買ったおにぎりは、手からすぐに温度を奪われた。
「駅から20分歩くって、これ全部上り坂じゃん」とAが文句を言った。
「でも石段街の隣だから、すぐに着くよ」とBが地図を広げた。

その日の夜、岸権旅館の玄関に足を踏み入れた時、まず感じたのは足の裏の温かさだった。靴を脱いで玄関の敷居を越える瞬間、畳の冷たさに足の指が縮こまった。でも次の瞬間、温泉の湯気が足湯から漂ってきて、足の裏がじんわりと温まった。
「これ、足湯?」とAが尋ねた。
「違う。玄関から足湯に繋がってるらしい」とBが答えた。
私たちは黙って靴を脱ぎ、足を浸した。


石段を上がる足音の不思議

翌朝、石段街に降りた時、3人は同時に足を止めた。
「うわ、すごい紅葉」とAが思わず声を上げた。
石段の両側に植えられたカエデの葉が、朝日に照らされて燃えるように赤かった。でも不思議なことに、その光は静かだった。
「まるで絵の中みたい」とBが呟いた。
私だけが、足元の石段に目を向けた。
石段は冷たく、凍えるような空気に反して、触ると少し湿っていた。
「この石段、100年以上前から存在してるらしいよ」と案内板を読み上げるBの声が、石段の上で何度も反響した。

私たちが石段を上がる足音は、思ったよりも小さかった。厚いカーペットのような段差に足を沈ませると、足音が吸い込まれるように消えた。
「これ、段差じゃない。階段じゃなくて、坂道みたい」とAが文句を言った。
「でもこの感じ、気持ちいいよ」とBが答えた。


黄金の湯が教えてくれたこと

温泉は、予想以上にぬるかった。
「ぬる湯っていうか、むしろ冷たい」とAが文句を言った。
「でも黄金の湯は身体の芯まで温まるって書いてあった」とBが反論した。
私たちは黙って湯船に浸かった。

最初は体が固かった。でも10分も経つと、関節がほぐれてきた。
「 nuovu って、イタリア語で「知らない」って意味なんだよね」とAが忽然言った。
「へえ、なんで?」とBが尋ねた。
「いや、ただ思いついただけ。でもこの湯、確かに知らない世界に連れて行ってくれる」

3人とも、そのうちに湯船の中でうとうとしてきた。
Aは湯船の縁に肘をつき、Bは背中を丸めて、私も足を投げ出して。
「私たち、3人とも同じ格好してる」とAが指摘した。
「仲が良い証拠」とBが答えた。


光の饗宴と偶然の再会

イルミネーションは、予想以上に幻想的だった。
石段街の両側に設置されたLEDの光が、紅葉の赤と織り交ぜられて、まるで炎の洪水のようだった。
「これ、写真撮っとかないと」とAがスマホを取り出した。
「でも写真じゃ伝わらないな」とBが答えた。
私たちはただ、光の海の中を歩いた。

その時、向こうから一人の女性が近づいてきた。
「あれ、もしかして岸権旅館の方?」とBが尋ねた。
女性は微笑んで「そうです。お客様ですか?」と答えた。
「実は、温泉で偶然お会いしたんです。その時、お土産のお菓子をいただきました」とBが答えた。
女性は驚いて「あ、あの時の方たちですか。懐かしい!」と言った。

私たちは3人で顔を見合わせた。
「世間は狭いな」とAが呟いた。
「でもいい再会だった」とBが答えた。


朝食の味と時間の流れ

朝食の席で、私たちは初めて群馬県産の食材の本当の味を知った。
ご飯は、炊きたての香りが立ち上り、一口噛むと甘みが広がった。
「これ、普通のご飯じゃない。米じゃなくて、何か違う」とAが驚いた。
「群馬県産のコシヒカリだよ。水もおいしいからね」とBが答えた。

そして、お味噌汁。豆味噌の風味が口の中に広がり、具には地元の野菜がたっぷり入っていた。
「これ、野菜が甘い。まるでデザートみたい」とAが感心した。
「群馬の野菜は甘みが強いからね」とBが答えた。

私たちは黙って食べ続けた。
時計の音だけが、ホールの隅で聞こえていた。


Scoreboard

もっともやりがいがあったのは、黄金の湯の効能についてAとBが真剣に議論した時。
「黄金の湯は身体の芯まで温まるって、どういう意味?」
「身体の芯って、体温が上がるってことじゃなくて、例えば...」
2人は30分以上議論し、結局「体感するしかない」という結論に達した。
面白かったのは、イルミネーション見物。計画していた時間より2時間も長引いたけど、3人とも「時間が止まってた」と同意した。

もっとも残念だったのは、芸術花火。開催が延期になってしまったため、見られなかったこと。でもその代わりに、岸権旅館の露天風呂で見た星空が、思った以上に美しかった。

最も意外な発見は、足湯と玄関が繋がっていたこと。最初は「何で?」と思ったけど、足を浸した瞬間、「これ、 genius だ」と思った。


温泉の底で光る、足の裏の記憶。
  • 渋川駅から岸権旅館まで、20分の上り坂を歩く時は、足元の石段の冷たさと、足の裏の感覚に集中してみよう。足音が消える感覚が、思った以上に心地いい。
  • 石段街のイルミネーションを見終わった後、岸権旅館の足湯に足を浸して、紅葉の残り香を感じながら10分間過ごそう。足の裏が光を覚える感覚は、11月の渋川でしか味わえない。