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冷たい空気の中で、誰かが笑った音

冷たい空気の中で、誰かが笑った音

1月の凍てつく風が、耳の裏側を鋭い針のように刺す。JR石和温泉駅からホテル花いさわまで、わずか徒歩5分の距離。なのに、誰か一人が方向を間違えたせいで、私たちは見知らぬ路地の迷路に迷い込んだ。誰が一番先に正解に気づくかという不毛な賭けをしたが、結果的に全員が正解から遠ざかっていた。寒さで真っ赤に染まった鼻先を突き合わせ、私たちはただ、呆れたように笑い合った。



ロビーで楽しむセルフカクテル。グラスの中で氷がカチカチと乾いた音を立て、色鮮やかな液体がゆっくりと混ざり合い、美しい層を成していく。それをぼーっと眺める時間は、旅の心地よい序曲のようだった。夕食の会席料理で運ばれてきた地元の冬野菜は、噛むたびに大地の濃い香りが鼻に抜け、空腹に突き動かされた私たちは、会話よりも食べる速度を競うことに没頭した。喉を通る温かさが、芯まで凍えた体にじわりと染み渡っていく。


和洋室の引き戸を開けるたびに「ぎぎぃ」と鳴る、年季の入った木の軋み。誰かが「これ、ホラー映画の導入部分じゃない?」と囁き、そこから15分ほど、誰が最初に部屋の隅に潜む「何か」を見つけるかという、くだらない議論に時間を費やした。正直、そんなことよりも充電器を忘れたことの方が致命的な問題だったのに、私たちはその小さなノイズさえも、旅のスパイスとして面白がっていた。


「完璧なスケジュール」と豪語して誰かが提示したメモが、実は昨年の別の旅行の使い回しだったと判明した瞬間。私たちは顔を見合わせ、同時に深く、重い溜息をついた。けれど、その適当さこそが、今の私たちに心地よい周波数だったのかもしれない。予定という名の鎖を捨て去ったとき、ようやく本当の旅が始まった気がした。


露天風呂に身を浸せば、肌を刺す氷点下の外気と、体を包み込む熱い湯の鮮やかなコントラスト。耳までどっぷりと浸かると、外界の雑音がふっと消え、自分の心拍数だけが耳の奥で静かに刻まれている。隣で誰かが「あー、生きてる」と小さく漏らした吐息が、水面に静かな波紋となって広がっていく。その静寂は空虚ではなく、満ち足りた充足感で満たされていた。


夜、部屋の明かりを消すと、窓の外に笛吹市の夜景が宝石を散りばめたように広がっていた。遠くの街灯が点々と繋がり、見知らぬ誰かの生活の灯火を教えてくれる。パリッとした清潔なシーツの肌触りに包まれながら、天井の模様をぼんやりと数えていた。明日どこへ行くかさえ決めないという贅沢が、心地よい重みとなって体に馴染んでいく。


初詣に向かった神社の、凛とした冷たい空気の中に混ざる、どこか懐かしいお線香の匂い。賽銭箱に投げ入れた5円玉が、チャリンと高く澄んだ音を立てた。お願い事の内容は誰にも言わない約束だったけれど、きっとみんな同じように、「来年もまた、このメンバーで馬鹿なことをしていたい」と願ったはずだ。頬を打つ冬の風が、心地よく冷たかった。


ホテル花いさわを後にするとき、心の中に心地よい残響が残っていることに気づいた。完璧とは程遠い旅だったけれど、その不完全さこそが、かえって鮮明な記憶として刻まれている。誰かと時間を共有することで、自分の輪郭が少しだけ柔らかく、曖昧になる感覚。それは、一人では決して聴くことのできない、贅沢な旋律だった。

帰り道の車窓から見えた、淡いピンク色の梅の蕾。

  • ロビーのウェルカムドリンクで、自分だけのオリジナルカクテルを作ってみて
  • 露天風呂で、外気と湯船の温度差に身を任せてぼーっとするのが正解