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浴衣の裾をひきずって、笑い合った夜

浴衣の裾をひきずって、笑い合った夜

8月の山梨は、空気が湿ったタオルのように肌にまとわりつく。まとわりつく熱気と、車内に充満するわずかな緊張感。家族旅行というものは、きっと映画のように優雅なものだと思っていたけれど、現実はもっと泥臭く、不器用なものだ。

車の中で次男が「温泉って、地球のお風呂なの?」と問いかけたとき、私は適切な答えを持っていなかった。けれど、正解を提示することよりも、その純粋な好奇心が生まれた瞬間の、車内の温度感を大切にしたかった。私たちは、完璧な旅程をこなすことよりも、ただ流れるままに、この時間を分かち合うことに決めた。

石和びゅーほてるに足を踏み入れた瞬間、まず耳を打ったのは、激しくも心地よい滝の音だった。それは単なる背景音ではなく、車内での些細な言い争いや、旅の疲れを静かに洗い流してくれる浄化の調べのように響いた。純和風の佇まいと、色鮮やかな鯉が泳ぐ日本庭園。水面に広がる波紋のように、小さな出来事がゆっくりと、けれど確実に、家族の心の隙間を埋めていく。そんな感覚に包まれていた。

家族の記憶に刻まれた、五つの断片

錦鯉のエサ: 指先に触れる乾いた粒のざらりとした感触。水面に投げ込まれた瞬間に広がる、繊細な同心円の波紋。次男が「魚たちが喧嘩してる!」と歓声を上げて飛び上がったとき、頬に飛んできた冷たい水しぶき。その光景に誰よりも先に、純粋な歓喜で気づいたのは彼だった。

浴衣の帯: パリッとした綿の質感と、腰を締め付ける少し窮屈な感覚。鏡の前でもがくもどかしい時間。長女が「大人っぽくなりたい」と何度も結び直したが、歩くたびに少しずつずり落ちてくる不格好な帯。その幼さと背伸びした姿に、ふっと愛おしさが込み上げたのは私だった。

掘りごたつの中の足: 畳の下に広がる、ひんやりとした静かな空洞。狭い空間に家族全員の足が入り混じり、誰の足か分からないもどかしさと温もり。末っ子が誰かの足の指をいたずらにくすぐったとき、そこから笑いの連鎖が始まった。この密やかないたずらに最初に気づいたのは、足先をくすぐられた父だった。

会席料理の小鉢: 指先に触れる陶器のひんやりとした冷たさと、山菜が放つ深く静かな土の香り。子供たちが「これは何?」と囁き合いながら、苦手な野菜をこっそり隣の皿に移す共犯関係。その小さな秘密のやり取りに、一番に気づいたのは母親だった。

滝のしぶき: 肌にまとわりつく微細な水滴の冷たさと、耳の奥まで満たす激しい水の奔流。ふと見上げたとき、水飛沫が光を反射して、小さな虹が揺れていた。その一瞬の幻想的な光景を、誰よりも真っ先に指差して教えてくれたのは、一番年下の末っ子だった。

石和びゅーほてるの畳に残った濡れた足跡さえ、今は愛おしい記憶だ。

  • 鯉にエサをあげる時は、子供たちの予測不能な動きに備えて、少しだけ距離を置いて見守るのが正解かもしれない。
  • 浴衣を着たら、完璧に結ぼうとせず、少し崩れたまま街へ出るほうが、旅の記憶として心地よく残る気がする。