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靴を脱いだ瞬間に、冬が外に追い出された

靴を脱いだ瞬間に、冬が外に追い出された

凍てつく風と、喧騒のなかの安堵感

頬を刺すような冷たい風が、肺の奥まで白く染め上げる。山梨県笛吹市の冬の空気は、薄い氷の膜のように肌に張り付き、呼吸をするたびに鼻腔がツンと刺激された。上の子は厚手のマフラーに顔を埋めて「寒いよ」と小さく不満を漏らし、下の子は私のコートの裾をぎゅっと握りしめて離さない。キャリーケースの車輪がアスファルトを叩く乾いた音が、静まり返った街に規則正しく響き渡る。駅からホテルまでわずか数分の道のりさえ、今の私たちには果てしない遠征のように感じられたかもしれない。

けれど、石和温泉郷ホテルやまなみの重厚な扉を開けた瞬間、世界の色が鮮やかに塗り替えられた。外の冷気を一瞬で忘れさせる、柔らかく包み込むような暖房の温度。ロビーに広がっていたのは、誰かが丁寧に整えた静寂と、かすかに漂うお香のような、落ち着いた檜の香りだった。チェックインの手続きの間、じっとしていられない子供たちがロビーを小走りに横切る。その無邪気な足音が、静謐な空間に心地よく溶け込んでいく。それはまるで、冬の土の下で静かに春を待つ種が、密かに殻を破ろうとする瞬間の、小さくて強い鼓動のような予感だった。「やっと着いたね」という独り言が、安堵感とともに心に染み渡った。

琥珀色の湯船と、子供たちが切り拓いた小さな冒険

部屋に入った瞬間、下の子が「わあ、広い!」と歓声を上げ、畳の上にダイブした。私たちが案内されたのは、和室の温もりとベッドの利便性が共存する和風ツインの客室。そこは、私たち家族にとって十分すぎるほどの「遊び場」へと変わった。上の子はベッドの端に腰掛け、窓の外に広がる冬の景色を物憂げに眺めている。しかし、彼らの本当の冒険は、お風呂で幕を開けた。

石和温泉郷ホテルやまなみの名物であるワイン風呂に足を踏み入れた瞬間、視界に飛び込んできたのは、深い琥珀色に輝く不思議な色のお湯だった。下の子が「お風呂がジュースみたい!」と大はしゃぎし、バシャバシャと激しく水を跳ね上げる。普段なら「静かにしなさい」と叱ってしまう場面だが、不思議とそんな気にならなかった。お湯の温度が心地よく、強張っていた肩の力がゆっくりと解けていく。肌に触れる湯の質感がどこか濃密で、身体の芯までじわじわと熱が浸透していく感覚。それは、凍りついた大地の下で、根がゆっくりと土を押し広げていくような、静かな生命力の回復に似ていた。さらに、水晶の湯などの多彩な浴場を巡るたび、子供たちの瞳には新しい発見への好奇心が宿っていく。

夕食の会席料理では、地元の旬の食材が贅沢に並んだ。山梨の冬の味が凝縮されたお料理から立ち上る白い湯気が、家族の顔をぼんやりと霞ませる。上の子が不慣れな箸使いで食材を運ぼうとして、お皿の端に少しだけこぼした。それを笑いながら拭き取る、そんな何気ないやり取りが、どんな豪華な設備よりも価値のある宝物のように思えた。湯気の向こう側で交わされる笑い声が、家族の絆をより濃密に編み上げていくようだった。

眠れる天使たちと、取り戻した自分だけの輪郭

夜の10時。嵐のように騒がしかった子供たちが、ついに深い眠りに落ちた。畳の上に大の字になって眠る二人の寝息だけが、部屋の中に規則正しく、穏やかに響いている。ようやく訪れた、大人の時間。私は一人で窓際に座り、外に広がる深い闇を見つめていた。1月の夜気は厳しく、ガラス一枚を隔てた向こう側では、きっと雪が静かに舞い降り始めているのだろう。手元にある湯呑みの、少し冷めてきたお茶の温度が指先に心地いい。ほろ苦い茶の香りが、昂っていた神経をゆっくりと鎮めてくれる。

子供たちが起きている間は、常に誰かの要求に応え、誰かの安全を確認し、誰かの機嫌を取り繕う。そんな「誰かのための時間」を全力で駆け抜けていたけれど、今この瞬間だけは、自分がただの一個体に戻れる。静寂には心地よい重さがある。それは孤独というよりは、贅沢な空白に近い。もともと人間は、一人でいるための臓器のようなものを心に持っているのではないか。それを否定せず、ただそこにあることを認める。ホテルの静かな夜は、そんな自分自身の輪郭を、ゆっくりと取り戻させてくれた。中庭から聞こえてくる、かすかな風の音。それは、誰にも邪魔されない、私だけの周波数だった。明日になればまた、賑やかな混沌に戻る。けれど、この静かな空白があるからこそ、また明日から子供たちの笑い声に心から耳を傾けられる。そう確信できた夜だった。

琥珀色の余韻を抱いて、また会う日まで

朝、目覚めると、部屋の中には淡く柔らかな光が満ちていた。荷物をまとめる時間は、いつも戦いだ。上の子が靴下を片方なくし、下の子はまだ夢の中にいて、私は時計の針を気にしながら、散らかった畳の上に点在するおもちゃを回収する。けれど、不思議と焦りはなかった。チェックアウトに向かう廊下で、子供たちが「もう一回あのお風呂に入りたい」と駄々をこね始める。その我がままさえ、今は愛おしく感じられた。

ホテルのスタッフさんが、子供たちに優しく微笑みかけてくれたとき、この場所が単なる宿泊施設ではなく、私たちの不完全な家族を丸ごと受け入れてくれた大きな器だったことに気づいた。外に出ると、空気は相変わらず冷たかったけれど、身体の芯にはまだ、あの琥珀色のお湯の温かさがしっかりと残っていた。私たちは、またいつかここに戻ってくるだろう。それは約束ではなく、ただの予感。けれど、その予感があるだけで、帰り道の車内は、出発のときよりもずっと穏やかな空気に包まれていた。私たちは、冬の休眠期間に、家族という名の小さな種を、この場所で大切に育ててきたのかもしれない。

  • 駅から徒歩3分の道のりは、冬場は想像以上に冷え込みます。お子様には厚手の靴下と、耳までしっかり隠れる帽子を忘れずに持たせてあげてください。
  • 和風ツインのお部屋は、ベッドと畳の両方があるため、お子様が自由に転がってリラックスでき、親御さんも心身ともにゆとりを持って過ごせます。