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青い水底で、指先が触れた距離

同じ青を、違う温度で眺めていた

視界のすべてが、深い青に塗り潰されていた。ホテル サンハトヤの海底温泉に足を踏み入れたとき、まず耳に届いたのは、水が壁に当たって跳ね返る、鈍くて柔らかい音だった。私は、あなたの肩のすぐ後ろを、銀色の小さな魚が一本の針のように通り過ぎるのを眺めていた。水というフィルターを通したあなたの横顔は、輪郭がわずかに滲んでいて、まるで記憶の中の誰かを見ているような気がした。ここでは、重力というルールが少しだけ書き換えられている。皮膚と水の境界線が曖昧になり、自分という個体がゆっくりと溶け出していく感覚。表面張力に支えられた水滴が、あなたのうなじをゆっくりと滑り落ちていく様子を、私はただ静かに追いかけていた。言葉を交わす必要はないと感じていた。ただ、この青い静寂の中で、私たちが同じ速度で浮遊していることだけが、確かな情報として伝わってきたから。


お湯の温度が、ちょうどよかった。骨の芯までじっくりと温められる感覚に、強張っていた肩の力がふっと抜けていく。私は魚のことなんて気づかなかったけれど、隣にいるあなたの体温が、水を通じてじわじわと伝わってくるのがわかった。海底という閉ざされた空間にいるせいか、自分の心拍音がいつもより大きく聞こえ、それがあなたにまで届いているのではないかと、少しだけ緊張した。ふと視線を上げると、天井から降り注ぐ光が、水面で細かく砕けて、私たちの間にきらきらとした網目を作っていた。その光の粒が、まるで二人を繋ぎ止める見えない糸のように見えて、私は、今ここであなたと一緒にいることが、なんだかとても贅沢なことのように思えた。もしかしたら、私たちはまだお互いの本当の歩幅を知らないのかもしれない。けれど、このぬるいお湯に身を任せている間だけは、その不確かささえも心地よいリズムに感じられた。

二人が同時に、呼吸を止めた瞬間

ラウンジの大きな窓に、白い結露がついていた。外の空気は5月特有の、湿り気を帯びた柔らかい温度で、どこからか藤の花の甘い香りと、若葉の青い匂いが混ざり合って流れ込んでくる。私たちはどちらからともなく、その曇ったガラスに指先で小さな、意味のない円を描いた。そのとき、ふと視線が重なった。どちらかが何かを言おうとして、けれど結局、何も言わずに笑った。その短い沈黙に、心地よい重さがあったという気がする。ホテルの厚いカーペットに足を取られて、あなたが少しだけよろけたとき、私は反射的にその腕を支えた。そのときの、指先に伝わった衣服の質感と、わずかな体温。私たちは、完璧に理解し合える関係ではないかもしれないけれど、同じ景色を見て、同じ香りに鼻をくすぐられ、同じタイミングで呼吸を止めることができる。それだけで十分なのだと、当時の私たちは、言葉にせずに分かっていた。


朝の光がリネンのシーツに落ちて、静かな約束のような色をしていた。
  • 伊東駅からホテル サンハトヤまで、送迎バスの窓から街の色が変わっていく様子を眺めること
  • 海底温泉の深い青の中で、あえて何も話さず、水の音だけに耳を澄ませてみる時間