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指先に残った、冬の潮風と梅の香り

5年後の私たちへ。2月の伊東、覚えてる?シャトルバスの時刻表を巡って言い合いになったことや、寒さで鼻先が赤くなっていたこと。あの時の、根拠のない全能感と、冬の澄んだ空気の匂いだけは忘れないでいてほしい。

5年後もきっと、心に波紋を残している断片

伊東駅からの5分間の喧騒
無料送迎バスの座席から漂う、古いビニールと誰かのスーツケースが混ざったような独特の匂い。目的地までわずか5分という短さなのに、車内で交わした「誰が一番に寝落ちするか」というくだらない賭けの熱量だけが、妙に鮮明に記憶に残っている。結局、私が一番先に意識を飛ばして、バスが止まった時に激しく揺り起こされたあの瞬間、私たちは同時に吹き出した。あの狭い空間に充満した笑い声こそが、旅の始まりを告げる合図だった。

青い静寂に溶けゆく時間
ホテル サンハトヤの海底温泉に足を踏み入れたとき、視界がふっと深い瑠璃色に染まった。水中に潜む光の粒子が、まるで深い海の底に迷い込んだような錯覚をくれる。目の前をゆっくりと横切る大きな魚の、滑らかな鱗の質感と、ゆらゆらと揺れる尾びれの残像。お互いに水着姿で、少しだけ照れくさそうに「ここ、本当にすごいね」と呟き合ったけれど、実際にはそのシュールな光景に圧倒されて、言葉を失っていた。お湯の温度が心地よく、肌に触れる水の重みが、凝り固まった肩の力をゆっくりとほどいてくれた。

凍てつく風と、紅色の点
梅まつりの会場へ向かう道中、肺の奥まで凍りつくような鋭い冬の風が吹き抜け、頬を刺した。けれど、視界に飛び込んできた梅の花の、刺すような鮮やかな紅色。その色の強さが、寒さを忘れさせるくらいに心地よかった。コンビニで買った温かい飲み物を手に、指先がじわじわと熱を取り戻していく感覚。誰が一番綺麗な花を見つけたか競い合ったけれど、結局はみんなで同じ方向を見て、「寒いね」と言い合うだけの時間だった。でも、その何気ない会話こそが、一番の贅沢だったのかもしれない。

深夜3時のカーペットの記憶
部屋に戻り、心地よい疲労感の中で横になったとき、足の裏に触れたカーペットの、少しだけ硬い質感。深夜3時、ふと目が覚めて廊下へ出たときの、しんと静まり返った空気と、遠くで低く響く波の音。隣の部屋で誰かが小さく笑ったような気がして、ふと自分の孤独が心地よく感じられた。ベッドのシーツが肌に吸い付くような冷たさと、その下に潜り込んだときの圧倒的な安心感。あの瞬間の、世界に私たちしかいないような密やかな感覚は、きっと何物にも代えがたい。

5年後にこの記憶の封印を解いたとき

旅の記憶は、白い紙に落としたインクがゆっくりと繊維に滲んでいくプロセスに似ている。最初は「海底温泉」や「梅の花」という点のような強い刺激だったものが、年月を経て輪郭がぼやけ、心地よい色彩だけが広がっていく。具体的に何を食べたかという詳細は忘れてしまうかもしれない。けれど、あの2月の冷たい空気の中で、あなたたちと一緒に笑っていたという温度感だけは、消えずに残っているはずだ。この記憶は、人生のどこかでふと息が詰まったとき、そっと心を開放してくれる小さな隙間になるだろう。

指先で分け合った、小さなチョコレートの甘い後味。

  • お魚風呂に入るなら、防水ケースを忘れずに。魚との距離が近すぎて、スマホを落としそうになるから。
  • 深夜にホテル近くのコンビニまで散歩して、冬の夜の静寂を味わってみて。