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指先が触れそうで触れない、木のテーブルの温度

指先が触れそうで触れない、木のテーブルの温度

もし、いまあなたが予約ボタンを押すのを迷っているのなら。あるいは、隣にいる人とのちょうどいい距離が分からなくて、どこか遠くへ行きたいと思っているのなら。十月の冷たい空気が、心地よく肌を刺す頃の定山渓の話をさせてください。記憶の底に沈めていた、あの静かな秋の日のことを。

琥珀色の静寂に、心まで染まる午後

頬を撫でる風が、しっとりと湿っていた。札幌から車を走らせ、定山渓に辿り着いたとき、目に飛び込んできたのは、燃えるような赤ではなく、どこか静かな諦めを孕んだ深い紅葉の色だった。花もみじのロビーに足を踏み入れた瞬間、外の冷気とは対照的な、柔らかい檜の香りと、誰かが淹れたほうじ茶のような温もりが肺を満たす。その温度差に、強張っていた肩の力がふっと抜けたのを覚えている。

私たちは、図書ギャラリーで長い時間を過ごした。長い年月を経て滑らかに磨り減った大きな木のテーブル。指先でなぞると、かすかな凹凸が心地よく、まるで私たち二人がこれまで歩んできた、噛み合わない歩幅の記録をなぞっているようだった。窓から差し込む午後の光は、舞い上がる埃さえも金色の粒子に変え、空間全体を琥珀色の膜で包み込んでいる。

「ねえ、この本、面白そう」と君が小さく呟いたけれど、ページをめくる指はどこか躊躇いがちで。私はわざと難しい顔をして分厚い美術書を開いた。知的な雰囲気を演じたかったが、五分もしないうちに意識が遠のき、心地よい静寂に巻かれて深い眠りに落ちていた。ふと目が覚めたとき、君が私の寝顔を見て小さく笑っていた。その笑い声が、この空間にあるどの音よりも、正確に私の心に届いた気がした。

その後、卓球ラウンジの賑やかな音に誘われて、少しだけ外の世界に戻った。ピンポン玉が弾ける乾いた音が、静まり返っていた私たちの関係に、心地よいリズムを刻んでくれる。言葉にできないもどかしさが、秋の光と笑い声に溶けて消えていく。そんな贅沢な空白を、私たちは共有していた。

湯気に溶かした、名付けられない感情

裸足で踏みしめる廊下のタイルの冷たさが、じわじわと足裏から体温を奪っていく。けれど、温泉の湯船に身を沈めた瞬間、世界から音が消えた。聞こえるのは、絶え間なく注がれるお湯の音と、遠くで鳴く鳥の声だけ。水圧が肩を心地よく押し戻し、肌と水の境界線が曖昧になっていく。隣にいる君の呼吸が、白い湯気に混じってゆっくりと深くなっていくのが分かった。言葉を交わさなくても、今この瞬間、私たちは同じ温度の中にいる。その事実だけで、十分だったのかもしれない。

部屋に戻り、糊のきいた浴衣に着替える。生地の少し硬い感触が、かえって心地よい安心感をくれた。二人で並んで座ると、浴衣の裾がわずかに重なり合う。その数センチの重なりが、今の私たちにとっての最大級の親密さだった。夕食にいただいた地元の山菜のほろ苦さと、炊きたての米の甘み。味覚が研ぎ澄まされ、普段なら「美味しいね」と口にする言葉さえ、ここでは贅沢すぎるように感じて、ただゆっくりと味わった。

食後、バーの落ち着いた照明の下で、氷がグラスに当たるカランという高い音が響く。その音の余韻が消えるまで、私たちはじっと互いの視線を避けていた。けれど、不思議と寂しくはない。孤独とは、誰かがいないことではなく、隣にいる人とどう向き合うかという、身体に備わった感覚のようなものだから。ベッドに横たわると、リネンの冷たさがすぐに二人の体温で温まっていく。窓の外では、夜風が紅葉を揺らす音が、誰かの囁きのように聞こえていた。完璧な答えなんて出なくていい。ただ、明日になれば、今日よりも少しだけ、隣にいる人の呼吸が心地よく感じられるかもしれない。

ある秋の日の、静かな部屋より。

  • 図書ギャラリーの隅で、あえて目的のない本をゆっくりと捲ってみて。
  • 早朝の冷たい空気の中、誰にも教えずに温泉の湯気に溶け込む時間を。