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朝の冷たい空気の中で、誰かが笑っていた

5年後の私たちへ。あの時、富士山を背に撮った写真、まだ持ってるかな。誰が一番ひどい顔をしているかで、また笑い合っている気がする。春の冷たい風が頬を撫で、胸の奥にいたずらに潜んでいた、あの名付けようのない心細さを、どうか忘れないでいて。

記憶の底に沈殿し、5年後も色褪せない景色

指先に触れた畳のざらつきと、い草の深い香り
富士河口湖リゾートホテルの和室(富士山側)に足を踏み入れた瞬間、鼻をくすぐったあの懐かしい匂い。障子を開ける乾いた音と共に、柔らかな光が部屋に満ちた。誰がどこで寝るかで揉めながら布団を広げたけれど、裸足で踏みしめた畳の適度な硬さが、新生活への不安で揺れていた心を静かに繋ぎ止めてくれた。

朝7時の、肺の奥まで澄み渡る冷気と温かいお茶
レストランの大きな窓から、凛とした空気の中に佇む富士山の雄大なシルエットを眺めていた時間。湯気を立てる炊き立てのご飯の甘みと、地元の魚の心地よい塩気が、冷えた身体を内側からゆっくりと解かしていく。「大人っぽい旅だね」なんて誰かが呟いたけれど、実際はパジャマのままロビーへ行きそうになっていた、あの滑稽なギャップに心から笑った。

温泉の白い湯気と、肌を刺す外気との激しい温度差
お湯に身を委ねた瞬間、凝り固まった肩の力がふわりとほどけ、意識が遠のくような心地よさに包まれた。けれど、ふっと湯船から出た瞬間に襲ってきた春の冷気に、みんなで「ひぃっ」と短い悲鳴を上げた。あの激しい温度の落差こそが、私たちが今、この場所で共に生きているという確かな手触りを、鮮烈に教えてくれた気がする。

駅からの11分間、砂利を踏むリズムと舞い散る桜の断片
河口湖駅からホテルまで歩いた、あの心地よい時間。靴底から伝わる地面の不規則な感触と、風に舞う淡いピンクの花びらが、誰かの肩にひらひらと舞い降りていた。お互いの忘れ物をチェックし合い、「あれ、ない!」と誰かが叫んだ瞬間の、絶望と爆笑が混じり合ったあの空気感。春の香りが混じった風が、私たちの笑い声を遠くまで運んでいた。

5年後にこの記憶の封印を解いたとき

おそらく、旅の正確な行程や、どこで何を食べたかという詳細なんてとうに忘れているだろう。けれど、桜の蕾が弾ける瞬間の、あの張り詰めた緊張感だけは、心に深く刻まれているはずだ。それは、私たちが新しい世界へ飛び出す直前の、震えるような期待と不安に似ていた。散りゆく花びらは、書き直しては捨てた手紙の下書きのように地面を白く染め、私たちの迷いを優しく包み込んでいた。富士山という動かぬ巨人が、私たちの小さな葛藤を静かに見守っていたあの感覚。その景色を共有したという事実が、いつかふとした瞬間に、今の私を支える静かな力になる。あ、そういえば誰かが格好つけて撮ろうとした瞬間に、絶妙なタイミングで鳥が横切ったあの写真、まだ保存してあるかな。

夕暮れのロビーに、溶け出したオレンジ色の光がゆっくりと満ちていた。

  • 富士河口湖リゾートホテルの富士山ビューの部屋を予約し、目覚めと共にカーテンを開ける快感を味わってほしい。
  • 駅からの道中、コンビニで買った温かい飲み物を手に、あえてゆっくりと春の呼吸を味わいながら歩くのが正解。