← 回到 富士河口湖溫泉酒店 朝富士

畳の上で、誰かが小さく笑った

畳の上で、誰かが小さく笑った

記憶を呼び覚ます、今日という日の五つの音

障子をガラガラと開ける、あの乾いた音。夫の指先が少しだけ震えていたのは、期待と緊張のせいだろうか。ひやりとした四月の外気が頬を撫で、雨上がりの土の甘い香りが鼻腔をくすぐる。この音は、日常という重いコートを脱ぎ捨てて、家族だけの親密な時間へと足を踏み入れた合図だった。

畳の上を裸足で走り回る、パタパタという不規則で速い足音。次男が「富士山が見える!」と歓声を上げ、富士河口湖温泉ホテル あさふじの富士山ビュー和室に敷いたばかりの布団を蹴飛ばして飛び出した。大人が描いた「静寂な休息」という計画は一瞬で崩れ去ったが、その無邪気なリズムが、部屋に心地よい体温と生命力を運んでくる。

すき焼きの鍋から上がる、ジューという激しい音。甘辛いタレが上質な肉に染み込み、濃厚な香りが湯気と共に部屋いっぱいに広がる。子供たちが「まだ食べられないの?」とせっつく声が重なり、食卓は心地よい喧騒に包まれた。完璧なマナーなど必要ない。立ち上る白い湯気の向こうで笑い合う、この温度こそが今の私たちにとっての正解なのだ。

温泉の湯船で、静かに水面を叩く、ぽつり、ぽつりという音。子供たちが寝静まった深夜、一人で浸かる時間は、心までほどいてくれる。熱い湯が肩に深くかかり、日々の緊張で凝り固まった心身が、泥のようにゆっくりと溶け出していく。ただお湯の温度に身を任せていると、親である前に、ただの「私」という個に戻れる気がした。

窓の外で、春の風が桜の枝を揺らす、さわさわというかすかな音。家族全員で、言葉もなく富士山の雄大なシルエットを眺めていた。誰かが「綺麗だね」と小さく呟いたが、本当は言葉など不要だったのかもしれない。ただそこに一緒にいるという確かな質量。足りないものがあるからこそ、今ここにある愛おしさが、淡い桜色に染まって胸に満ちていく。

明日もまた、この乱雑で温かな幸せの中にいたい。

  • 富士河口湖温泉ホテル あさふじの浴衣に身を包み、あえて目的もなく館内をゆっくりと歩いてみて。
  • 朝七時の澄んだ空気の中、まだ半分眠っている子供と一緒に富士山を眺める時間を大切に。