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畳の上に転がった、小さな赤い葉っぱ

畳の上に転がった、小さな赤い葉っぱ

喧騒と期待が交差する、冬の入り口

ホテルの自動ドアが開いた瞬間、11月の鋭く冷たい空気が、火照った頬を心地よく撫でた。それと同時に、子供たちの靴が磨き上げられたロビーの床の上で「キュッキュッ」と軽快に鳴り響く。チェックインの手続きを進める私の耳には、次男がロビーの隅にある装飾に目を輝かせて発する歓声と、長女が「早くお部屋に行きたい!」と私の袖を何度も引く、小さな手の感触が伝わってきた。両手いっぱいの重いスーツケースと、制御不能なエネルギーを爆発させる子供たち。正直なところ、到着した直後は心地よい疲労感よりも、「この旅を無事に完遂できるだろうか」という、親としての小さな不安が胸をかすめていた。

しかし、スタッフの方が柔らかな微笑みで迎えてくれたとき、張り詰めていた空気がふっと緩むのがわかった。重い荷物を預けるときの、あの肩の荷がすっと降りる感覚。それは単に物理的な重量が軽くなったからではなく、ここから先は「完璧な親」である必要はなく、ただの家族としてこの空間に溶け込んでいいのだという、静かな許可をもらったような安心感だった。富士河口湖温泉ホテル あさふじのロビーに漂う、どこか懐かしく落ち着いた木の香りが、私たちの緊張をゆっくりとほどいていく。

子供たちの瞳に映る、小さな宇宙と大きな山

案内された「富士山ビュー和室」に足を踏み入れた瞬間、い草の清々しい香りが鼻腔をくすぐり、子供たちは歓声を上げて畳の上を駆け出した。私たちはそのまま、徒歩3分ほどの距離にある河口湖まで、秋の終わりの散歩に出かけることにした。11月の空気は凛としていて、吐き出す息が真っ白に染まる。道端に舞い落ちた色鮮やかな紅葉を、次男が宝物のように拾い上げては「見て!富士山と同じ色だよ!」とはしゃいでいる。大人が「絶景だね」と遠くの山に感心している横で、子供たちは地面を這う小さな虫や、不思議な形の石ころに全神経を集中させていた。彼らにとっての世界は、足元の数センチにこそ無限の宇宙が広がっているのだ。

ふと、長女が立ち止まり、両手を大きく広げて富士山を丸ごと囲い込むようにポーズをとった。「パパ、今、富士山をつかまえたよ!」と笑う彼女の瞳には、山そのものの雄大さよりも、その瞬間を共有している私たちの楽しさが鮮やかに映っていた。計画していた観光ルートなど、もうどうでもよかった。富士山パノラマロープウェイまで歩く15分の道のりさえ、彼らにとっては未知の領域を切り拓く壮大な冒険だった。歩幅の違う三人と一緒に歩くもどかしさはあるけれど、その不揃いなリズムこそが、今の私たちにとって一番心地よい人生のテンポなのかもしれない。

湯気に溶け出す、親としての呼吸

夕食のすき焼きを囲み、甘辛いタレの芳醇な香りと、霜降り肉が焼けるジューシーな音に包まれた後、ようやく訪れた静寂の時間。子供たちが布団の中で、深い眠りの海へと落ちていく。畳の上に転がった一枚の赤い葉っぱが、窓から差し込む月明かりに照らされ、静かに呼吸していた。私たちは、心地よい肌触りの館内着に着替え、最上階にある温泉へと向かった。

お湯に体を沈めた瞬間、指先からじんわりと熱が伝わり、一日中歩き回った足の疲れが、白い湯気と共に溶け出していく。視界の端には、夜の静寂に包まれた富士山の深いシルエットが、守護神のようにどっしりと構えていた。お湯の温度がちょうどよく、肌が心地よく痺れる。隣でパートナーと、言葉少なに、でも確実に心がつながっている感覚。子供たちが起きているときの賑やかさも愛おしいが、この「大人の時間」という贅沢な空白があるからこそ、また明日、彼らの騒がしさを心から愛せるのだと思う。湯気で視界がぼやけ、現実と夢の境界線が曖昧になる。ただ、温かい。それだけで十分だった。部屋に戻り、布団の中で丸まっている子供たちの規則正しい寝息を聞きながら、私たちはようやく、自分たち自身の呼吸を取り戻したという気がした。

富士の裾野に、心の一片を置いて

翌朝、鰹節ごはんの香ばしい匂いで目が覚めた。チェックアウトの時間が近づくにつれ、子供たちの表情に「帰りたくない」という切なさが混じり始める。荷物をまとめる際、靴下の一足が見つからなくて大騒ぎになったけれど、そんな混乱さえも、今となっては愛おしい記憶の断片だ。富士河口湖温泉ホテル あさふじの玄関を出るとき、振り返ると、そこには昨日と同じ富士山が、変わらぬ重厚さで立っていた。でも、ここに来る前と後では、私たちの心の中にある「家族」というパズルのピースが、ほんの少しだけ、ぴったりとはまったような気がする。完璧な旅ではなかったけれど、不便さや騒がしさも含めて、それが私たちの正解だった。車に乗り込み、エンジンをかけたとき、後部座席から「また来ようね」という小さな声が聞こえた。その言葉に、私たちはただ静かに頷いた。

  • 11月の河口湖は想像以上に冷え込むため、子供には重ね着を。特に湖畔を散歩する際は、耳まで隠れる帽子があると安心です。
  • 夕食のすき焼きは絶品ですが、子供が野菜を嫌がる場合は、お肉と一緒に巻いてあげると、甘いタレの味で意外と食べてくれます。