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キングサイズのベッドで、肩が触れない距離

キングサイズのベッドで、肩が触れない距離

「ここ、いい感じじゃない?」

「ここ、いい感じじゃない?」

君がそう言って、部屋のドアを閉めた。カチッという小さな、けれど決定的な音が、三ノ宮の街の喧騒を遮断した瞬間だった。

「シンプルすぎる気がするけど」

僕がそう返すと、君はシモンズの大きなベッドの上にダイブして、深く、長い息を吐いた。

「それがいいの。何もないから、私たちがここにいることが、なんだかはっきりわかる気がして」

ふわりと漂うリネンの清潔な香りが、僕たちの緊張をゆっくりと解いていく。

触れ合う温度と、心地よい不確かさ

裸足で踏んだフローリングの、ひんやりとした温度が足裏から心地よく伝わってくる。JR三ノ宮駅から歩いて数分。湿り気を帯びた九月の風が、まだ肌にまとわりついていたけれど、BRENZA HOTELのドアをくぐった瞬間に、空気の密度が変わった気がした。過剰な装飾を削ぎ落としたモダンな空間は、まるで誰の記憶もついていない真っ白なノートのようで、そこに僕たちの時間を書き込んでもいいのだと、静かに許してくれているみたいだった。間接照明が落とす柔らかな琥珀色の光が、部屋の隅々にまで温もりを届け、外の冷たい夜気との対比を際立たせている。

窓の外には、神戸の街が宝石を散りばめたように広がっている。厚手の遮光カーテンが、外の世界とこの部屋の間に明確な境界線を引いていた。その織り目の粗い布を少しだけ開けると、夜空に浮かぶ月が見えた。九月。月見の季節。遠くの公園で揺れているであろうススキの白さを想像しながら、僕たちはあえて言葉を交わさずに、ただ窓の外を眺めていた。沈黙というのは、時に気まずいけれど、ここでは心地よい重さを持って僕たちの間に横たわっている。遠くで聞こえる車の走行音が、心地よい低周波のノイズとなって、かえってこの部屋の静寂を深く、濃いものに変えていた。それは、孤独という名の臓器を、二人で共有しているような、不思議な安心感だった。

スーペリアシングルルームの機能的な静寂の中で、シモンズのベッドに身を沈めると、肌に触れるリネンのひんやりとした感触が、次第に体温で温まっていく。適度な反発力がある。それは、相手に寄り添いすぎず、かといって突き放さない、僕たちが今ちょうど模索している距離感に似ているかもしれない。ふと、荷物を運ぶ時にかっこつけて一度に全部持とうとして、入り口の段差で派手にバランスを崩した僕のことを、君が小さく笑った。僕は「これは前衛的な歩き方なんだ」と適当に返したけれど、その小さな笑い声が、この部屋の静寂に一番いい周波数で溶け込んだ気がした。

途中で立ち寄ったカフェで食べた、地元のぶどうを使ったタルトの味が、まだ舌の端に残っている。凝縮された果実の濃厚な甘さと、後味に抜ける爽やかな酸味。秋へと移り変わる季節の、曖昧な境界線のような味だった。僕たちはまだ、お互いのすべてを理解しているわけではないし、これから先、うまく歩幅を合わせられるかもわからない。けれど、この遮光の膜に守られた静かな空間で、ただ隣にいることだけは、今の僕たちにとって正解なのだと感じた。

夜の帳が下りた神戸の街が、宝石をぶちまけたように、静かに瞬いている。

  • 夜明け前に、まだ誰もいない港の方まで、ゆっくりと散歩してみようか。
  • 1階のレストランで、あえて目的のない会話をしながら、季節のスイーツを分け合いたいね。