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冷たいリネンの端を指先でなぞったとき

冷たいリネンの端を指先でなぞったとき

自動販売機の低い唸りと、掌の中で冷たく光る硬貨の感触。早朝の神戸、空気はまだひんやりとしていて、深く吸い込むたびに肺の奥まで洗われるような清涼感があった。旅というものは、きっと書きかけの楽譜のようなものだ。完璧なメロディを期待して出かけたはずなのに、実際には予想もしなかった不協和音がいくつも混ざり込む。けれど、そのズレこそが、後で思い出したときに一番心地よく響く周波数になる。私たちはそんな不完全なリズムを抱えて、ダイワロイネットホテル 神戸三宮PREMIERへと向かった。

同じ午後、二つの記憶

(マキの視点)
三ノ宮駅からホテルまで徒歩7分という計算は完璧だった。5月の陽光が新緑を透かし、街全体が淡い緑色のフィルターをかけたように眩しい。私は地図を握りしめ、最短ルートを提示し続けた。辿り着いた部屋のドアを開けた瞬間、21平米というゆとりある広い客室が広がっていて、内心ガッツポーズをした。スーツケースを完全に広げても、まだ十分な歩行スペースがある。アメニティバーに整然と並ぶ備品たち。この「計算通りの余裕」こそが、旅のクオリティを決定づけるのだと確信していた。

(サキの視点)
マキの「完璧なルート」のおかげで、私たちは二回同じ角を曲がった。彼女は自信満々に間違った方向へ私をリードしていたけれど、それがかえって幸運だった。ふいに漂ってきた藤の花の甘い香りに誘われて脇道に逸れたとき、見たこともない静かな路地を見つけたから。ホテルにチェックインし、ロビーのひんやりとした空気に触れたとき、ようやく旅の緊張がほどけた気がする。それに、バスとトイレが分かれているセミセパレートの構造に気づいたとき、「これで朝の準備で喧嘩しなくて済む」と、心の中で小さくガッツポーズをした。

同じ朝食、二つの味覚

(マキの視点)
ホテルの朝食ビュッフェには、某種の秩序だった美しさがあった。色鮮やかなサラダの盛り付けや、健康に配慮されたメニューの構成。私は、シャキシャキとした食感の新鮮な野菜を丁寧に皿に盛り付けた。口の中で弾ける瑞々しさが、昨日の歩き疲れをリセットしてくれる。挽きたてコーヒーの深い苦味が、少しだけ眠っていた意識を鮮明に塗り替えていく。正確な温度で提供される料理の数々に、プロフェッショナルの仕事を感じて、心地よい充足感に浸っていた。

(サキの視点)
正直、味よりもあの空気感が忘れられない。まだ半分眠っている状態で、パジャマのような格好でテーブルについた私たちの、ひどい顔。マキが「野菜を食べなきゃ」と真面目な顔で盛り付けている横で、私はバターをたっぷり塗ったパンを頬張り、口の端に黄金色の脂をつけた。ふいに、マキが完璧に盛り付けたサラダの皿に、ナプキンをひらりと落とした。その拍子に二人で同時に吹き出して、コーヒーを吹き出しそうになった。あの、くだらなくて、でも最高に自由な時間が、私にとってのメインディッシュだった。

私たちが唯一同意したこと

北野異人館まで歩いて、バラの香りに酔いしれ、神戸の坂道を何度も上り下りした。足の裏がじわじわと熱を持ち、心地よい疲労感が身体の輪郭をぼやかしていく。そんな状態で、ダイワロイネットホテル 神戸三宮PREMIERの部屋に戻り、ベッドに倒れ込んだとき。私たちは同時に、深く長いため息をついた。

そこにあったのは、パリッとした白いリネンの張り。指先でなぞると、冷たくて、それでいて滑らかな表面が肌に吸い付く。密な織り目が、身体の重みを均等に受け止めてくれる感覚。それは、旅の途中で散らばった思考や感情を、ひとつにまとめてくれる真っ白なキャンバスのようだった。誰が正しいルートを知っていたかとか、誰が何を食べたかとか、そんなことはもうどうでもいい。ただ、このリネンの冷たさと、隣で同じように心地よさに浸っている友人の気配があれば、それで十分だ。私たちは言葉を交わさず、ただ沈み込むように眠りに落ちた。

神戸の朝、カーテンの隙間から差し込む光は、淡いゴールド色をしていた。

  • 北野異人館のバラ園まで、あえて地図を見ずに歩いて迷い込むことをおすすめします。
  • 南京町で、名前も知らないB級グルメを友人と思い切りシェアして食べてみてください。