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スニーカーに張り付いた、小さな桜の花びら

スニーカーに張り付いた、小さな桜の花びら

賑やかな靴音と、重たいキャリーケースのダンス

ロビーに足を踏み入れた瞬間、子供たちのスニーカーがキュッキュと高く鳴り、静謐な空間に波紋のように広がった。右手のキャリーケースはずっしりと重く、左手では「僕が持つよ!」と意気込む上の子が、結局半分も持てずにふらついている。下の子は私のコートの裾をぎゅっと握り、好奇心に満ちた瞳で高い天井を見上げていた。チェックインを待つ間、家族という集団が奏でる、心地よくも騒々しい不協和音が、旅の始まりを告げるファンファーレのように聞こえる。「やっと着いたね」と心の中で呟いたとき、ふわりと清潔なリネンのような香りが鼻をくすぐった。4月の熊本の空気は、外はまだひんやりとしているが、ダイワロイネットホテル熊本のエントランスを抜けると、春の陽だまりのような柔らかな温もりに包まれる。その温度差に、旅の緊張で凝り固まっていた肩の力が、雪解けのようにふっと抜けていく。ロビーの洗練された静けさが、私たちの喧騒を優しく包み込んでくれた。

桜のトンネルを抜けて、子供たちがみつけた「宝物」

朝7時。まだ夢心地の目をこすりながら向かった朝食バイキングでは、焼きたての赤牛の香ばしい香りが食欲を激しく刺激した。肉の脂がじゅわりと溶け出した濃厚な香りが、心地よい目覚まし時計となる。下の子が小さなフォークで慎重に肉を突き刺し、口いっぱいに頬張って「おいしい!」と歓声を上げる。その真剣な横顔に、私たち夫婦は顔を見合わせて微笑んだ。お腹を満たした後は、ホテルから熊本城へ。徒歩10分という距離は、大人にはわずかだが、子供たちにとっては未知の領域をゆく大冒険のルートだ。道沿いには淡いピンク色の桜が空を覆い尽くし、風が吹くたびに淡い色の花びらが雪のように舞い降りる。「見て!これはお城の鍵なんだよ」と、上の子が地面に落ちた一番大きな花びらを拾い上げ、誇らしげに教えてくれた。重厚な石垣に触れたときの指先に伝わる冷たい石の質感と、頬を撫でる春風の温かさ。その鮮やかなコントラストが、今この瞬間にここにいることを、鮮明に刻みつけてくれた。子供たちの靴底には、いつの間にか小さな花びらがいくつも張り付いていた。それはガイドブックには載っていない、彼らだけの小さな戦利品だった。

深い静寂と、大人のための小さな避難所

夜、子供たちが泥のように眠りについた後、部屋の空気はふっと凪いだ。それまで喧騒で埋め尽くされていた空間が、ゆっくりと、けれど確実に広がっていく。まるで、部屋の壁が外側へ向かって静かに押し広げられたかのような感覚だ。私たちはここでようやく「親」という役割の鎧を脱ぎ捨て、ただの個人に戻る。ダイワロイネットホテル熊本の部屋に備わった、バスとトイレが分かれたセミセパレートの構造が、この瞬間に最高の価値を持つ。誰にも邪魔されず、熱い湯船に身を沈めると、一日中張り詰めていた神経が、温かいお湯に溶け出すようにゆっくりとほどけていった。風呂上がり、21㎡以上のゆとりある空間にあるワイドデスクに腰を下ろし、キンキンに冷えた飲み物を一口。デスクライトのオレンジ色の光が、手元のノートを静かに照らす。隣で夫が小さく吐いたため息は、疲れではなく、深い充足感に満ちた呼吸だった。私たちはあえて多くを語らなかった。ただ、窓の外に広がる熊本の夜景を眺めながら、静寂という名の贅沢を共有していた。この静けさは、昼間の喧騒という対価を支払ったからこそ得られる、特別な報酬なのだ。

またね、と言い合えないままのチェックアウト

最終日の朝、パリッとしたリネンの冷たさに心地よく包まれながら、私たちはゆっくりと目を覚ました。荷物をまとめる時間は、いつも少しだけ切ない。上の子がパジャマを脱ぎたくないと駄々をこね、下の子はベッドの上で転がりながら、まだここにいたいと全身で表現していた。ジッパーを閉める金属音が、旅の終わりを告げる合図のように響く。けれど、ロビーを出て再び外の空気に触れたとき、心には桜の下で笑い合った記憶が、確かな重さを持って残っていた。私たちは、またいつかここに戻ってくるだろう。そのときには、子供たちの歩幅がもう少しだけ広くなっているはずだ。

  • 子供と一緒に泊まるなら、ぜひ朝食の赤牛バイキングを。子供たちが真剣に料理を選ぶ姿を見るだけで、十分な旅の思い出になります。
  • 熊本城までは歩いて10分。あえて急がず、道端に咲く花や小さな発見を子供と一緒に探しながら歩く時間が、一番の贅沢です。