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布団の上に落ちていた、一枚のバラ

布団の上に落ちていた、一枚のバラ

午後の光とバラの花びら

午後3時、陽光が西の河原通りの屋根を這う頃、亀の井ホテル 草津湯畑の和室の窓辺に一本のバラが咲いていた。真っ白な花びらの先がほんのりとピンクに染まり、まるで誰かが指先でそっと色を差したかのよう。窓を開けると、外の空気が流れ込み、バラの甘い香りが部屋に広がった。その花は、草津の湯気が立ち上る湯畑の向こう、白根山の稜線を背景に揺れていた。

「このバラ、誰かが置いていったのかしら?」

彼女が呟くと、指先がバラの花びらに触れ、部屋の隅に一枚の花びらが静かに落ちた。その瞬間、二人の手が触れ合い、空気が温かくなったような気がした。それは空気の温度ではなく、触れ合った手のひらからじんわりと広がるぬくもりで、草津の温泉の匂いが混じっていた。

白根山の稜線は霞んで、雲と山の境界が曖昧だった。だが、バラの花びらが落ちた時、時間が凍ったように静謐な瞬間が訪れた。まるで、このホテルの時がゆっくりと流れているかのようだった。


夜の静寂と足湯のぬくもり

午前3時、目が覚めた。手のひらに、まだ草津の湯のぬくもりが残っていた。部屋の明かりは消していたが、廊下の向こうからぼんやりとした光が差し込み、足湯の湯気のような、湯の匂いのような、そんな光だった。

起き上がって窓を開けると、外は静まり返っていた。どこかの家の足音が石畳の上を歩く音が聞こえ、まるで誰かが家路についているかのよう。足を床に下ろすと、木の床の冷たさが足の裏に伝わった。だが、手のひらにはまだ湯のぬくもりが残っていた。

床を踏みしめるたびに、部屋全体がわずかに揺れるような気がした。揺れというより、呼吸のような、ゆっくりとしたリズムで、草津の湯気が部屋中に満ちているかのようだった。掛け布団は少し厚めで、二人が寝ると真ん中がわずかにへこみ、そこには二人の体温が残っていた。

ふと、布団の上にまた一枚のバラの花びらが落ちているのに気づいた。


部屋の隅で、バラの花びらが静かに揺れていた。