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午後の光が、床に梅の影を描いた

午後の光が、床に梅の影を描いた

午後三時、榻榻米が温められた瞬間

正月の空気が澄み切った午後三時。外は雪がうっすらと積もっていたけれど、昔心の宿 金みどりの大堂は、まるで違う季節のようなぬくもりに包まれていた。榻榻米の上に靴を脱いだとき、足の裏が思わず沈み込むような感触があった。その質感は、表の寒さとはまるで相反していた。木の匂いと、どこかで炊かれているお茶の香りが混ざり合い、思わず深呼吸をしたくなる。空気は乾燥しておらず、むしろ湿り気を帯びた暖かさが、肌の奥まで染み込んでくるようだった。

受付の奥で、スタッフが静かにお茶を運んでくるのが見えた。その手つきは、まるで水面に触れるように優しく、カップが机に置かれる音すら、他の世界の音のように聞こえた。その音が消えると、代わりに、どこかで焚かれている炭の音が微かに耳に届いた。まるで時計の針が止まったかのような静寂の中、その音だけが、時間の流れを感じさせた。

「外、寒そうね」とあなたが小声で言った。

私は窓の外を見た。庭の梅の木が、枝一本一本に雪を纏っていた。陽光が斜めに差し込み、梅の枝の間から床に光の破片が落ちていた。その光は、まるで誰かが描いた水彩画の一筆のようで、色の境目が滲んでいるように見えた。その儚さに、思わず息をのんでしまった。

「この光、しばらく見ていたいな」と私は呟いた。

あなたが笑って、私の手を握った。その手の温もりが、外の冷たさを忘れさせてくれた。


深夜二時、火の揺らぎが雪を照らした

貸切風呂の扉を開けた瞬間、外の冷気が一気に部屋に流れ込んできた。けれど、その冷たさは不思議と心地よかった。風呂場の空気は湿っていて、蠟燭の火が揺れながら、雪の降り積もった庭を照らしていた。外の世界は真っ白な闇で、その中にただ一つ、黄色い光の点があった。火の揺れるたびに、雪面に揺らぐ光の模様が広がった。まるで宇宙の星屑が降り注いでいるように見えた。

「この光、見ていても飽きないね」とあなたが言った。

風呂の湯気が鏡に張り付き、その上を指でなぞると、そこに小さな水滴ができた。その水滴が冷えて、すぐに氷の粒になった。私はあなたの肩に手を置いた。

「寒くない?」と聞くと、あなたは首を振った。

「この温かさが、外の寒さを全部包み込んでるみたい。まるで、このお風呂が私たちだけの世界を作ってくれてる」

風呂の湯が膝まで来たところで、二人の呼吸が同期した。外では風が木々を揺らす音が聞こえたけれど、その音はまるで遠い記憶のように、この部屋の中には届かなかった。むしろ、湯船の中で聞こえる自分の呼吸の音の方が、ずっとリアルに感じられた。


風呂から上がって、バスタオルで身体を拭きながら、私はふと窓の外を見た。

雪は降り続いていた。けれど、その雪の一粒一粒が、まるで時間を止めたように見えた。私たちの足跡が、風呂場から玄関まで続いていた。その跡が、やがて雪に埋もれてゆく。

その光景を見ていると、なんだか嬉しくなった。昔心の宿 金みどりの貸切風呂は、午後の静かなひとときも、深夜の火影の下も、それぞれの時間に寄り添ってくれる。手づくり会席のお料理は、季節の素材そのままの味わいが、身体の芯まで温めてくれる。

外の世界は厳しい寒さに包まれていたけれど、この場所だけが、時間さえも優しく包み込んでくれているような気がした。