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地毯が足の裏に残した温度

地毯が足の裏に残した温度

07:00、廊下の光が足の裏をくすぐる

冷たい廊下のタイルを裸足で踏むと、指の先がうっすら赤く染まる。夏の余韻がまだ残る朝、6時半の光は木の節穴を通して、まるで顕微鏡で見た葉脈みたいに床に模様を描いている。

老大は布団をたたむ時に、いつも小首を傾げる癖があって、今日も隅っこに押し込めた掛け布団の角が斜めになっていた。老二はまだ布団の中で、枕に顔を押し込んで「もう一回」と呟いている。

部屋の外に出ると、廊下のカーペットが足の裏の汗を吸ってくれる感触があった。このカーペット、分厚くて、子供の足音が二階まで届かない。昔心の宿 金みどりの、あの静けさはこのカーペットから始まっていたのかもしれない。


11:00、草津の空気が子供の靴下を汚す

草津の温泉街を歩いていると、空気がちょっと重い。硫黄の匂いが、汗と混じって靴下に染み込んでいく。老二が忽然足を止めて「お母さん、この匂い、卵が腐ったみたい!」と言って鼻をつまむ。

老大はその横で、温泉の看板を読んでいた。看板には「草津の湯は優しい」と書いてある。彼は小さく「優しいってどういう意味?」とつぶやく。私たちは一瞬答えに詰まった。

昼食は月見団子と地元の野菜が入った味噌汁。月見団子は甘さ控えめで、団子そのものの小麦の風味が残っていた。老二は一口食べて「これ、お餅みたい!」と叫ぶ。


18:00、家族のバランスが揺れる瞬間

夕食は和室の一角で、手づくりの会席料理。刺身の盛り合わせが並ぶと、老二は「魚生!」と大喜び。老大は箸を置いて、湯葉の煮物をじっと見つめる。

「お父さん、この湯葉、どうやって作るの?」
「豆乳を煮て、薄く剥がすんだよ」
「つまり、お豆腐を皮を剥いだみたいな感じ?」
と、理科的な視点で解説し始める。

ところが、老二の方は箸で湯葉を掴もうとして失敗し、膳にぽとりと落とす。すると老大が「危ない!」と叱る声が上がり、お父さんは「はいはい、落ち着いて」と間に入る。

そのやり取りを聞いていると、この旅は「完璧な家族写真」なんかじゃなくて、こんなふうに小さな衝突があったからこそ、記憶に残るのかもしれないと思った。


23:00、子供の寝息が部屋を満たす

老大の部屋は布団の端が少し折れ曲がっていた。老二は仰向けで、口を半開きにして寝ている。二人の寝息が、和室の障子越しに漂う。

廊下に出ると、カーペットの上に小さな足跡が残っていた。老二が寝る前に、トイレに行った時のものだろう。その足跡は、厚いカーペットに吸い込まれるように消えていた。

浴室からは、温泉の残り湯が流れる音がかすかに聞こえる。硫黄の匂いがもうほとんどしない代わりに、木の風呂桶が放つ檜の香りが部屋中に広がっていた。

お父さんは、コーヒーを淹れようとして、カップを手にしたまま動かなくなる。この静けさが、家族というカーペットの上に、今日一日の記憶が沈んでいく感覚だった。


その静けさの向こうで、明日の朝が静かに待っている。
  • 昔心の宿 金みどりで、貸切風呂を予約しておくと、夕方の混雑を避けられる。子供と一緒の入浴は、思ったよりも時間がかかるものだ
  • 9月の草津は朝晩の気温差が激しい。羽織り物を一枚持っていくと、秋祭りの夜に重宝する