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足の影が魚に見えた午後

足の影が魚に見えた午後

足が床に着かない浴槽で、老二が忽然叫んだ。「お魚!お魚がいる!」

床の間の障子越しに差し込む冬の afternoon lightが、足の影を水面に映していた。老二は自分の足の甲を覗き込み、影が泳いでいるように見えたらしい。湯気で曇った鏡が、彼の驚きを映し返す。



客室の露天風呂から立ち上る湯気が、部屋中に立ち込め、空気を温かく湿らせていた。
大人は浴衣の帯を締め直し、子どもは浴衣の裾をたくし上げて、湯船に足を入れる。
老大は「もっと熱い湯がいい!」と主張したが、老二は「ぬるいほうがいいの!」と泣きそうな顔をしていた。
結局、湯船の温度は「ちょうどいい」一歩手前で落ち着いた。

足の裏に伝わる温かさと、首筋を撫でる湯気のぬくもりが、二人の主張を和らげた。



6時のロビーは、誰もいない。木の床が凍えるような寒さに、吐く息が白く見える。
7時になると、エレベーターの扉が開く音が途切れなくなり、小学生の集団が廊下を走り抜ける。
その音の切り替えが、このホテルのリズムのような気がした。

足音が遠ざかると、再び静寂が戻り、ロビーの暖房がカチカチと音を立てる。



和会席の料理は、栗の甘露煮で始まった。皮がやわらかく、中身はとろりと濃い。
老二は「これ、お菓子?」と聞いた。
「お菓子みたいに甘いけど、ご飯の後に食べるんだよ」と答えると、老二は「じゃあ、これもご飯?」とスプーンで掬った。

栗の甘さが口に広がる瞬間、老大は「おいしい」と呟いた。



客室の障子に、朝日が差し込んでいた。畳の目が、光と影でまるで迷路のように見えた。
老大は「迷路だ!」と言って、指で影をなぞっていた。
老二は「ぼく、出口見つけた!」と叫んで、障子を押し開けた。

外からは、二十種の湯めぐりの足音が微かに聞こえる。



露天風呂の湯船に、桐の葉の飾りが浮かんでいた。葉脈が水面で揺れ、光を反射していた。
老二はそれを取ろうとして、湯船に落ちそうになった。
結局、母が「危ないよ」と抱き上げた。

桐の葉が水面を滑る音が、静寂を破る。



夜の客室で、外の音が聞こえた。雪解けの滴り。誰かの足音。
自分の呼吸。家族の寝息。
それらが織りなす、ゆるやかなメロディ。

老大は「この音、聞こえる?」と小声で尋ねた。



湯宿 季の庭の窓から、草津のイルミネーションが見えた。クリスマスの飾りが、温泉の湯気がかすんでいる。
老二は「クリスマスツリーみたい!」と指を差した。
老大は「あれ、お星さま?」と呟いた。

家族はそれぞれ、違う光景を見ていた。でも、同じ場所にいた。

  • 露天風呂付き客室で、二十種の湯めぐりを体験しよう
  • 和会席料理の栗の甘露煮を、家族で一緒に味わおう