指先に触れる空気はひんやりと湿り気を帯び、4月の苗栗は世界が白に染まる季節だ。車窓の外では桐の花が雪のように舞い散り、視界の端で小さく震えている。後部座席からは、「ねえ、この花はどこまで続いてるの?」という次男の無邪気な問いかけと、お気に入りのぬいぐるみを抱きしめて眠る長女の規則正しい呼吸音が聞こえてくる。道は緩やかに曲がり、時折、タイヤが砂利を噛む乾いた音が車内に響いた。私たちは計画通りに目的地へ向かっているつもりだったが、実際には道端に咲く名もなき白い花に心を奪われ、何度も速度を落とした。子供たちが窓に張り付いて外の世界を必死に観察し、その小さな指がガラスに残した曇った跡が、今の私たちの旅のあり方を表している気がする。完璧なスケジュールなんて、この白い花びらの嵐の前では意味をなさない。ただ、心地よい混沌と共に、深い森の懐へと吸い込まれていく感覚だけが、何よりも贅沢に感じられた。
境界線を越え、静寂の層に抱かれる
重い扉を開け、「竹美山閣 藝術園區」のロビーに足を踏み入れた瞬間、世界の周波数がふわりと変わった。外の風の音と子供たちの高い声が厚い壁に遮られ、代わりに低く穏やかな旋律が空間の隅々にまで浸透している。空気の温度が数度上がり、かすかな茶葉の香りと古い木の匂いが混ざり合って鼻腔をくすぐる。ロビーに展示された不思議な形の彫刻に目を輝かせる子供たちの姿を見て、さっきまでの騒がしさが、好奇心という名の静かな集中力に変わっていくのがわかった。ここでは静寂は単なる「音の不在」ではなく、旅人を優しく包み込むための柔らかい層のようなものだ。チェックインを待つ間、窓の外に切り取られた絵画のような森の風景を眺めていると、心までゆっくりと解きほぐされていくのがわかった。
家族だけの城、森の呼吸と滑らかな湯
部屋のドアを開けた瞬間、子供たちは弾かれたように中へ飛び込んでいった。12坪ほどの空間は、彼らにとってはこの上ない巨大な遊び場になる。長女は畳の感触が気に入ったのか、そのまま転がって持ってきた絵本を広げ始め、次男は部屋の隅から隅までを全力で走り回り、その足音が床に心地よく反響している。大人が「静かにして」と言う代わりに、私たちはただその奔放なリズムに身を任せることにした。この部屋では、誰がどこにいても自由だ。
私たちは荷物を床に置き、まずは客室にあるプライベートな湯船へと向かった。足裏に触れるタイルの温度はちょうどよく、そこから一歩踏み出した先にある大理石の浴槽が、滑らかな質感で私たちを迎えてくれた。お湯を溜め、その温度を指先で確かめる。身体を沈めると、重力から解放され、心の中にあるもやもやとした塊がゆっくりと溶け出していく。レビューで見た通り、驚くほど滑らかな水質が肌を包み込み、レモンバーベナの香りが蒸気と共に立ち上がり、肺の奥まで満たしていく。窓の外に広がる深い森林景観が、視界を穏やかに癒やしてくれる。隣では子供たちが水面をパシャパシャと叩き、水しぶきが頬にかかる。普通なら「危ない」と叱るところだけれど、ここではその飛沫さえも、旅の心地よいスパイスのように感じられた。日常の中で「正しさ」を求めすぎていたのかもしれない。ここでは、水浸しの床も、散らかったタオルも、すべてが許されている。もふもふとした白いタオルに身体を包み込み、ベッドに倒れ込んだとき、シーツのパリッとした感触が肌に心地よく、深い安らぎが身体の芯まで浸透していった。
窓越しの世界、不完全なパズルの愛おしさ
夜が近づき、部屋の大きな窓の外には、深い青色の霧がゆっくりと降りてきた。先ほどまで白く輝いていた桐の花が、今は霧に溶け込み、幻想的な風景を作り出している。私たちは窓辺に並んで外を眺めていた。子供たちは、霧の中に何か怪獣が隠れているのではないかと熱心に議論している。その様子を眺めながら、私はふと思う。家族というものは、決してぴったりとはまらないパズルのようなものかもしれない。誰かがはみ出し、誰かが足りない。けれど、その隙間があるからこそ、そこに新しい風が吹き込み、笑い声が入ってくる。
外の世界は、相変わらず霧に包まれ、どこか不安定で予測不能だ。けれど、「竹美山閣 藝術園區」の厚い壁に守られたこの安全な城の中にいると、その不安定ささえも愛おしく感じられる。私たちは明日もまた、白い花びらが舞う山道を歩くだろう。きっとまた、誰かが道を間違え、誰かが転び、誰かがお腹を空かせて泣き出す。けれど、そんな不完全な旅の断片こそが、後になって一番鮮やかに思い出す記憶になるはずだ。窓ガラスに映る、自分たちの少し疲れた、けれど穏やかな顔。それを眺めているだけで、十分だという気がした。
白い花びらが一枚、窓の隙間から入り込み、子供の寝顔の上に静かに降りた。
- 泰安の山道を散歩する際は、ぜひ子供と一緒に「一番白い花」を探してみてください。視点が変わるはずです。
- 宿泊後は、地元の名店「江技旧記」で、もちもちとした食感の肉圓や餛飩を味わうのがおすすめです。