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記憶の底に沈殿して離れない、あの日の断片

5年後の私たちへ。

あの肌にまとわりつくような熱帯の湿り気と、「誰が地図を失くしたか」で言い争った、くだらない時間を覚えているかな。きっと忘れているかもしれないけれど、あの心地よい混乱だけは、心のどこかに澱のように残っていてほしいと思う。

記憶の底に沈殿して離れない、あの日の断片

「迷子競争」という名の無謀な賭け
誰が一番先に育樂世界で方向感覚を失うか、出発前に賭けたこと。色鮮やかなネオンと揚げ物の香りが混ざり合う喧騒の中で、結局全員が途方に暮れ、スタッフの方に申し訳なさそうに道を訊ねていたあの滑稽な光景。あの時、一緒に「どうしよう」と笑い合った感覚は、きっと一生忘れられない。

尚順君樂飯店の深い眠りと浄化の湯
部屋に入った瞬間、冷房で心地よく冷やされたシーツに飛び込んだときの、体がゆっくりと水底に沈んでいくような感覚。そして、旅の疲れを溶かすように注がれた、勢いのあるお湯の心地よい水圧。浴槽に身を委ねて、ただ静寂に浸っていたあの時間は、私たちをただの「旅人」へと還してくれた気がする。

筍の甘みが溶け出した、黄金色のワンタン
江技旧記で出会った、あのワンタン。立ち上る湯気と共に、出汁の深い香りと筍の控えめな甘みが口いっぱいに広がった。誰が一番多く食べられるかという、大真面目な競争の末に、お腹いっぱいで全員が心地よい沈黙に包まれたあの時間。あの味は、苗栗の柔らかな空気と一緒に記憶に張り付いている。

窓ガラスを叩く、5月の雨のパーカッション
午後に降り出した雨が、ホテルの大きな窓を不規則に叩くリズム。遠くで雷が低く唸り、空気が急に重くなったとき、誰かが呟いた「もう全部諦めて寝よう」という言葉。外に出られないもどかしささえも、暖かい部屋の中では贅沢な安堵感に変わり、私たちは静かな音楽に包まれるように眠りに落ちた。

5年後にこの記録を開いたとき

たぶん、旅の細かいスケジュールや、どこで何を食べたかという正解のような情報は消えているだろう。けれど、雨に濡れた百合の花の匂いや、ホテルの廊下を歩くときに響いた私たちの笑い声だけは、身体のどこかに保存されている気がする。完璧な計画なんて、本当は必要なかった。むしろ、予定が狂った瞬間にだけ現れる、あの独特の連帯感こそが、この旅の正体だったのではないか。誰かが失敗し、誰かがそれを笑い、それでも一緒にいることが心地よい。そんな、不揃いなリズムで呼吸していた時間が、今の私たちを形作っている。あの時、私たちはただそこにいていいのだと、互いに許し合っていたのかもしれない。

色とりどりの光が揺れるバーの片隅で、冷たいグラスを指先で転がしていたあの夜の静寂。

  • 江技旧記のワンタンは、ぜひお腹を空かせてから、ゆっくりと味わってほしい。
  • 尚順君樂飯店に泊まるなら、あえて予定を詰め込まず、雨の音を聴く時間を作ってみて。