← 回到 HOTEL SHIRAHAMAKAN

畳の上に残った、小さくて濡れた足跡

ベランダの扉を開けた瞬間、肺の奥まで突き刺さるような冷たい空気が入り込み、一瞬だけ呼吸を忘れた。12月の南紀白浜は、想像していたよりもずっと、冬の厳しい顔をしていた。けれど、その凍てつくような冷たさがあるからこそ、部屋に戻ったときに漂うい草の乾いた懐かしい匂いや、足裏からじわりと伝わる畳の微かな温もりが、より鮮明に、そして愛おしく感じられた気がする。

家族との旅というのは、どこか「小さな舟で航海するチーム作戦」に似ている。誰かが忘れ物をし、誰かが急に機嫌を損ね、それを誰かが慌ててなだめる。そんな泥臭いやり取りこそが、後になって一番心に深く刻まれる宝物になる。HOTEL SHIRAHAMAKAN(白浜館)の「離れ/特別室/露天風呂付/和室」に身を寄せたとき、私たちはそんな心地よい乱雑さと、深い安らぎの中にいた。「見て、お外が真っ白だよ!」とはしゃぐ子供たちの声が、静かな客室に心地よく響き渡っていた。

冬の白浜で家族が分かち合った、五つの記憶の断片

木製の樽風呂:立ち上る真っ白な湯気に包まれ、檜の芳醇な香りが鼻腔をくすぐる。熱いお湯に身を沈めた瞬間、強張っていた肩の力がふっと抜け、体温がゆっくりと境界線を失い、お湯と一体化していく感覚。次男が忽然、「あ!魚がいる!」と叫んで激しく身をよじったけれど、よく見たら自分の足の指だった。その拍子に上がった大きな水しぶきに、家族全員で声を上げて笑った。この「お風呂の不思議」に真っ先に気づいたのは、好奇心旺盛な次男だった。

白良浜の白い砂:宿から歩いてわずか30秒ほどの距離にある、宝石のような浜辺。12月の砂は、見た目の柔らかさとは裏腹にひんやりと冷たく、裸足で踏みしめると指先から鋭い冷気が突き抜ける。けれど、その純白の砂が眩しく、冬の深く澄んだ青い空との鮮やかなコントラストに、しばらく言葉を失った。「ここ、まるで雪の世界みたいだね」と、誰よりも早く、静かに呟いたのは、いつもは冷静な長男だった。

浴衣の帯:慣れない手つきで結ぼうとしても、指の間をすり抜けてどうしても緩んでしまう、さらりとした布の質感。子供たちの小さな腰回りに帯を巻く作業は、まるで正解のない精密なパズルを解いているようだった。「もう、じっとしていて!」と苦笑しながら格闘したけれど、結局誰の帯も少し斜めになっていた。その不格好さがなんだか微笑ましく、家族の絆のように感じられた。この「結べないもどかしさ」を一番に味わっていたのは、格闘していた私だ。

冬の庭園のしじま:窓の外に広がる、静まり返った和風庭園。色鮮やかな花こそないけれど、冬の植物が持つ凛とした静かな強さがそこにはあった。部屋の中の賑やかな笑い声と、窓一枚隔てた外の世界の絶対的な静寂。その鮮やかな温度差に、ふと意識が向けられた瞬間があった。この深い静けさに一番に気づき、慈しむようにじっと外を眺めていたのは、旅の疲れを静かに癒していた祖母だった。

朝食のクロワッサン:トースターで温め直した瞬間に広がる、バターが焼ける香ばしく濃厚な匂い。外側はサクッと軽やかに崩れ、中はしっとりと温かい。コーヒーから立ち上る白い湯気と共にテーブルを囲み、「今日はどこへ行こうか」と地図を広げて話し合う、至福の一時。誰が一番に「美味しい!」と声を上げたかは覚えていない。ただ、全員が同じタイミングで、心から幸せそうな顔をしていたことだけは記憶に焼き付いている。

湯上がりの火照った頬に、冷たい夜風が心地よい。家族の笑い声が夜空に溶けていく。

  • 白良浜までは本当にすぐなので、あえて靴を脱いで、パウダーのような砂の感触を確かめる時間を設けてみてください。
  • 樽風呂での時間は、あえて時間を決めずに、お湯が心地よいと感じるまでゆっくりと心身を委ねるのがおすすめです。