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セミダブルのベッドで、誰の足が一番外側だったか

喧騒と期待が交差する、はじまりのチェックイン

アスファルトを叩くキャリーケースの規則的な音が、静岡駅の喧騒に溶けていく。5月の空気はまだどこかひんやりとしていて、肌に触れるたびに目覚めたばかりの街の、湿り気を帯びた土と排気ガスの混じった匂いが鼻をくすぐった。右手に重いバッグ、左手には「あっちに行きたい!」と全力で主張して走り出す次男の手。長女は自分のペースで、けれど確実に迷子になる方向へと歩を進めている。ふと足元を見ると、次男の靴紐がほどけていた。結び直そうと屈んだ瞬間、視界に飛び込んできたのは、ビルとビルの隙間を鮮やかに埋める新緑の輝き。マイホテル竜宮までのわずか数分の道のりが、まるで小さな冒険のように感じられた。チェックインの手続きの間も、子供たちはロビーの椅子の脚や、どこか懐かしい昭和レトロな内装に興味津々で、静寂とは程遠い時間が流れている。けれど、その騒がしさが不思議と心地よかったのは、この場所が飾らない日常をそのまま受け入れてくれる、懐の深い空気を持っていたからだろう。白い厚手の生地が水分を吸い込むように、ここにある穏やかな空間が、私たちの家族の混乱を優しく吸収してくれる。そんな予感に、ふっと肩の力が抜けた。

予定外の発見と、パタパタ響く小さな冒険

案内されたツインルームのドアを開けた瞬間、まず目に飛び込んできたのは、家族にとっての「戦場」となるベッドだった。大人が二人で眠るには十分な広さだが、子供二人を加えた途端、そこは戦略的な陣取り合戦の場へと変貌する。「私が端っこがいい!」と宣言する長女の上に、次男がダイブする。もみくちゃにされたシーツの、少しざらつきのあるけれど肌に馴染む安心感のある感触。ふと見ると、次男がホテルの備え付けのスリッパを履いて、部屋の中を滑走していた。サイズが大きすぎて、歩くたびに「パタパタ」と愉快な音が響き渡る。その滑稽な姿に、家族全員でふっと笑いが漏れた。「見て、僕、巨人の靴を履いてるみたい!」という天真爛漫な声。計画していた観光プランにはない、こんななんてことない瞬間こそが、旅の本当の輪郭を作るのかもしれない。外に出れば、5月の静岡はバラと藤の花が咲き誇り、甘い香りが風に舞っていた。地元の店で買った真っ赤なイチゴを口に運ぶと、驚くほど濃厚な甘みが舌の上で弾け、子供たちの瞳がキラキラと輝いた。彼らにとっての旅とは、有名な名所を巡ることではなく、見たことのない色の花を見つけたり、人生で一番甘い果物を食べたりすることにある。部屋に戻り、再びあのベッドに潜り込むとき、私たちは一つの大きな塊になっていた。誰の足が外側に追い出されたか、そんな些細なことで言い合いながら、心地よい疲労感に包まれていった。

深夜の静寂に溶ける、大人のための贅沢な空白

子供たちが深い眠りに落ち、規則的な寝息が部屋を満たした頃、ようやく大人のための時間が訪れる。エアコンの低いハムのような作動音が、心地よいリズムとなって耳に届く。窓の外に広がる静岡の夜景は、点在する光がまるで誰かがこぼした宝石のように、闇の中に静かに沈んでいた。私は冷たい飲み物をグラスに注ぎ、結露で指先がじわりと濡れる感覚を味わう。昼間の喧騒が嘘のように、空間がしんと静まり返っている。その静寂は決して孤独なものではなく、むしろ満たされた空白のような、贅沢な時間だった。隣で静かに呼吸しているパートナーの気配を感じながら、私はふと思う。家族で旅をするということは、個人の時間をあきらめることではなく、共有した混沌のあとに訪れるこの静寂を、より深く味わうための儀式なのではないか。指先で触れたベッドリネンの質感は、昼間よりもずっと滑らかに感じられた。吸水性のいい白い布地が、一日中張り詰めていた「親」としての緊張感を、ゆっくりと吸い取ってくれる。何もしない。ただ、夜の冷たい空気を吸い込み、明日もまた子供たちが騒ぎ出すことを、どこか楽しみに待つ。そんな静かな充足感が、ここにはあった。

ほどけない絆を連れて、日常へと戻る道

チェックアウトの朝、窓から差し込む光は白く、透き通るように透明だった。荷物をまとめる際、またしても次男の靴紐がほどけているのに気づく。今度は急がず、ゆっくりと時間をかけて、丁寧に結び直してあげた。子供たちは「まだここにいたい」と、名残惜しそうに部屋の隅々を見渡していた。完璧に洗練されたラグジュアリーな空間ではなかったけれど、マイホテル竜宮には、私たちの不器用な旅をそのまま包み込んでくれる、心地よい懐の深さがあった。エレベーターを降り、再び静岡の街へと踏み出すとき、私たちは昨日よりも少しだけ、お互いの距離が近くなっていた気がする。旅が終わっても、あのパタパタというスリッパの音や、ベッドでもみくちゃになった記憶は、心の中に小さな結び目となって残るだろう。それは決して解く必要のない、温かくて心地よい、家族という名の結び目だ。

  • 静岡駅から至近の好立地のため、小さなお子様連れでも移動のストレスが少なく、街歩きを気軽に楽しめます。
  • 昭和レトロな趣のある空間で、家族で寄り添って過ごす時間は、何物にも代えがたい親密な体験になります。